忘れられない映画[1話]
「ご、ごめん、考えごとしてて……どうしたの?」
「落とし物。ん」
「え……あっ?!」
彼が差し出したのは、私が中学の頃から趣味で書いていた“映画ノート”だった。
観た映画の分析をして、好きなように書き留めたノート。
それは、自分の内側が丸出しのような、自分だけの…むしろ他人には絶対に見られたくない物だった。
私は慌てて柊くんの手からノートを奪い取った。
「………見た?」
恐る恐る聞くと、柊くんは「いや」と即答した。
あまりの早さと、どことなく白々しいその表情が信用出来ない。
「本当に見てない?」
「うん」
「本当?」
「見てないよ」
「……」
少し疑いつつも、
さすがに嘘ではなさそうと判断した私はひとまず胸を撫で下ろした。
こんなの見られた日には、私の映研部員人生が終わっていたに違いない。しかも相手は柊保監督の孫なわけだし。
私はフーッと息を吐いてノートをリュックに突っ込むと、階段を降りていく柊くんのうしろを小走りで追いかけた。
「あの柊くん」
「なに」
「部内選考、参加するの?」
興味本位だった。
入部してから1年が経つ。
名匠と呼ばれる映画監督を祖父に持ちながら、彼自信の制作姿は見たことがない。
私の問いかけに、足を止めた柊くんは振り返る。
「しないよ」
短く答えたその様子に、一線をひかれた気がした。
触れちゃいけなかったかな?と軽い気持ちで聞いたことを少し後悔した。
「あ…そうなんだ」
私も自分から聞いておいてそんな返ししかできなかった。
「そういう楠木さんは?」
「え?」
「部内選考出るの?」
「ま、まさか。
私は観る専門だから。作るなんて出来ないよ」
「観るのも才能だと思うけど?」
「いやいや…」
愛想笑いで謙遜するも、内心ドキドキしていた。
観る専なんて、他人に話した事は無い。
自分の秘密をさらけ出したみたいで、なんだか気恥ずかしい。