買われた花嫁
 知らない場所で知った顔を見て安心した――というのは、その見知った相手が私にとって好意的な人だった場合に限る。

 蓮司さんに気づいた時、素直にぎくりとした。

 頬が引きつり、背中を冷や汗が伝う。一瞬頭が真っ白になり、今すぐ帰りたい気持ちでいっぱいになった。

 でも、もう私の帰る場所はここになってしまったのだ。

 長年の不自由から逃れるためにと、政略結婚を受け入れたから。

 無視をするわけにもいかず、声をかける前に深呼吸をして自分を落ち着かせる。

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