Re:Romance


 ―――――事務室に戻って、キャスター付きの椅子で座ったままコピー機まで移動する私。


 デスクに戻れば、右隣に座る事務の後輩、高市歩子《たかいちあゆこ》(27)が用紙を手に、キャスターを転がせ間近に迫ってきた。


「先輩、あさっての合コン、年下男性がのこのこやって来ても大丈夫ですか?」


 用紙を立て、耳打ちをするように私に伝える高市さん。今事務室は誰もいないんだからそのまま喋ってくれていいんだよ。と呆れ半分のため息に乗せた。


「年下でも年上でも平凡男子でも、人間の男ならなんでもありですよ。」

「先輩のために開催する合コンなんだから、もう少し具体案をPDFでくれないと!デブ、ハゲ、ヲタの歩兵しか揃いませんよ?」

「なにそれ合コンの王将じゃないですか。」


 昔みちるが幹事の合コンでやって来たデブハゲヲタは、3人ともエリート商社マンだった。


 あさっての合コンの言いだしっぺは私だ。しかし結婚願望の強い高市さんも出会いを求めてるのは事実。まさに私個人が求める利益は、全体の利益になるともいえるのではないか。


という倫理で片付けたところで、デスクの一段目に入れていたスマホのバイブ音が聞こえる。


 胸につかえる引き出しを開けたまま、スマホを確認すれば実来君からメッセージが入ってきていた。


 まさか、律儀にお弁当の感想?


〈香椎課長に僕とのこと話してませんよね?〉


 検討違いも甚だしいなおい。でもめげない叶恵はこう返す。
 

《話してないし、かんぴょうの乾燥具合の感想を一言どうぞ。》

〈お弁当箱がしっかりしていますね。〉

《実来君のように芯がしっかりしているお弁当箱を買いました。》

〈恩着せがましいな。〉
 

 恩着せがましくてもなんでも、実来君だけを思って作ったお弁当はプライスレスだ。


《せめて味の感想なり何か賛辞をいただければ私の気も晴れます。》

〈味は覚えてません。〉

《ではお弁当を取りに戻ってきてくれただけでも良しとします。》

〈香椎課長にあの謝罪海苔文を見られるとまずいと思っただけです。〉

《そっすか》


 ですよね〜。なんとなくそうかなとは思っていたよね〜。


 さあて仕事仕事!趣味は中古車調達、奇跡が起これば妥協の彼氏。


 そして頼れる後輩は今も熱心にマッチングアプリに夢中。OLよ、仕事せよ。


「高市さんて、なんでそんなに結婚したいんですか。」

「仕事したくないからです!先輩こそ、なんで元モデルなのにそんな黒縁眼鏡に髪を一つ縛りにして地味を気取ってるんです?」

「元モデルだというのを知られたくないからです。」

「手遅れというのが現実なんですから、今さら地味にしなくてよくないですか?」


 よくないんです。せめてギャルのヤリマンだった事実を自己的に抹消したいからです。


 特に実来君との過去の一件が知れ渡れば、社内で白い目でみられて居場所もなくなるかもしれないし。


 できれば私は、このなんの思い入れもないMURANO中古車部に骨を埋めたいと思っている。いくら忙しいとはいっても20時前退社、完全週休2日、昇給年1回、昇与年2回に有給があれば充分じゃなかろうか。


「でも先輩のが珍しいですよね?」


 ナチュラルボブヘアの高市さんが、ガチ勢専用マッチングアプリの手を止め私を不思議そうに見つめる。


「アラサーなのに結婚願望ない方がおかしくないですか?」


 まさに淡色とは呼べない常套句を、世間一般的思考の高市さんに突きつけられた。そんな理由、決まってんじゃん。


「結婚の現実を両親にまざまざと見せつけられてきたからです。あんなもん魔界村と一緒ですよ。」

「魔界村って、狭いんですか?広いんですか?」 


 結婚は広範囲に渡って魔界村じゃないか。見てみなよ?どこまでも続くのっぴきならない家系図を。







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