Re:Romance

 誰かが上手いことを言った。歴史とは、二度と失敗を繰り返さないために語り継がれるものだと。 


 私、叶恵里夏《かなえりか》の黒歴史。


 我が社の喫煙場で今日も生き生きと語り継がれている。
 
 
「叶恵リカってAV女優じゃなかった?」

「レースクイーンじゃね?」

「ギャル雑誌の読者モデルからの成り上がりで一時テレビも出てたんだけどね。」

「若手の俳優食って事務所辞めさせられたんだっけ?」  


 食ってないわ。


 ただ17歳の俳優とテーマパーク行ってスクープ写真撮られただけ。事務所も辞めさせられたんじゃなく自分で辞めたのー。


 新車部に見積もり届けにきたつもりだったけど、喫煙所でこうも大胆に話されちゃ行きにくいったらありゃしない。新車部の営業は顔はよいのに顔だけだ。


 当社、MURANO(ムラノ)は自動車ディーラー。ムラノ自動車というメーカーの正規販売店だ。


 うちはその中の地方ディーラーで、新車と中古車を両方販売している。敷地内にはショールームのある新車部棟、青空駐車場しかない中古車部棟、整備用の工場の3か所に分かれていて、私は中古車部で営業事務をしている。


 主にオークションでの仕入れや、新車購入時の顧客からの中古車を買い取り、認定中古車としての販売を専門としているのだ。


 今は新車購入顧客リストからの中古車査定で、20件もの見積もりを新車部に届けに行く途中。


 しかし生涯に障害はつきもので、こうして棟と棟の間にある喫煙所にて、私、叶恵里夏の黒歴史が語られているのだ。


「イメージガタ落ちで売れなくなって自主退所しただけですよ。都落ちってやつです。」   


 新車部から歩いてきたあの男、実来心晴《みらいこはる》26歳。


 喫煙者たちに笑顔を向け、そう私の黒歴史を正した。


「えーなあんだ。AV出身なら一度くらいやらしてくれっかと思ったけど。」

「ただの都落ちかあ。」

「叶恵さんはご覧の通り根っからの純情乙女なんで。あれは相当身持ち硬いよ。って課長が言ってましたけど。」  


 ダークな蒼碧《せいへき》の瞳が、自販機の影に隠れる私に視線を送る。慌てて身体ごと自販機に陰らせる。


今日もダークチョコ色の髪が綺麗にセンター分けを作り、さらりと掻き上げる仕草に私の胃腸が悲鳴を上げる。


「まあいつも髪一つしばりで黒縁メガネだし。美人でスタイルいいけど地方止まりってやつかあ。」
  
「ある意味手え出しやすいけどな。」

 
 28歳は女の崖っぷちだと言うけれど。


読者モデルから専属モデルに成り上がり、一時はバラエティにも出演。映画の脇役に抜擢されて、そこから若手俳優とのスクープ写真で映画を降板。


批判に苦情の絶えない事務所に、これ以上迷惑をかけられないと自ら退所。

 
 私はもう崖から飛び降りた事後だというのに。

 
この男はあざ笑うように私とセックスをするのだ。




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