Re:Romance
「昔、とある雑誌にモデルとの紹介掲載を頼んだことがあってさ。そのモデルとのコラボ記念にムラノと共同製作で作ったやつ。抽選だからね、数量限定なのよ。」
里夏先輩が頻繁に手に持つ同じミントのボールペンを、課長はたまにこうして皆が集まる場面で見せてくる。
その牽制の仕方がささやかなのに大胆で、いかにも香椎寿佐だ。
課長がボールペンを再び胸ポケットにしまい、博物館に飾るかのように大事さを見せびらかす。
「課長、出向理由のもう半分を聞いていません。」
「そんなの辞令だからに決まってんでしょ。」
「辞令? 同じ数量限定ボールペンを持つ元モデルのいる店舗に、奇跡的に辞令が出されたってことですか?」
ああ、余裕がなさすぎて格好悪すぎだ。
課長なら親の権力振りかざして、好きな店舗に出向できるだろうという僕の読みは当たりかはずれか。スカウトの査定に相応しい社員は全国にいるはすだ。
しかし課長はシロクロはっきりさせなかった。
ひらりと片手を挙げ、代わりに生ぬるいエールを送る。
「幸せにするならさっさと幸せにしてやってよ同じ高校の後輩くん。今にも折れちゃいそうな彼女、見てて痛々しいのよ。」
下の階に踏み出す課長に、上からブーイングで突き返してやった。
「課長には婚約者がいるからって、黙って見てるだけですか。」
こっちも見ずに、ポケットに手をつっこみながら降りていく。隙だらけに見せるのが上手い男の背中は、やはり絶対的王者の風格だった。
「いんや。お節介焼いて守ってるだけ。」