Re:Romance
僕がメーカーであるムラノ自動車に就職したいと思ったのは、海運業界で働く姉の影響だった。姉は、ムラノの車が日本の年間輸出製品圧倒的シェアを誇ると教えてくれた。
そして里夏先輩と雑誌でコラボしていたこともあり、全世界と繋がりを持つ日本の世界的企業で働きたいというのが志望理由だった。
今までどんな努力も惜しまず成功を手にしてきたというのに。2次試験のグループディスカッションで、柔軟性がないと落とされて。恋愛以外で初めて知った挫折だ。
先輩の実家と僕の実家もそう遠くない距離にある。
でも先輩の実家が営んでいる食堂にはずっと行けずにいた。モデルを引退したのだから、先輩が食堂を手伝っている可能性は十分にあるのに。
高校時代に振られた手前、もし先輩に出会ってしまったらどう接していいのか分からない。そんな情けない思いを日々抱いていた。
―――――――――
ムラノ自動車の子会社であるMURANOで働き始めて三年。今の店舗に異動となった。
突如として訪れた偶然の出会い。先輩を目にした瞬間、僕は居ても立っても居られないあの衝動に駆られる。
いつかの挫折も、摩擦をかけて磨いてやれば過剰な利己主義に返り咲くのだから面白い。
モデルを引退した誌面上の叶恵リカには、この先どう頑張っても出会えない。それならこの身近にいる叶恵里夏に手を伸ばせばいいのではないのかという衝動。
真っ向勝負ができない僕は、復讐という身体の関係を思いついた。
感情で突き動かされることはない僕の蓄積した欲が、偶然の出会いにより歪に乱れ始めた。
「先輩、僕を覚えていますか。」
黒縁眼鏡をかけて髪を一つ縛りにした里夏先輩が、話しかけた僕に目を泳がせた。
元モデルであることを隠したいのかもしれないが、眼鏡をかけて地味を装っていても里夏先輩は綺麗な人だった。
「はい。忘れるはずも、ありません。」
久しぶりに聞いた彼女の第一声は、なぜか敬語で。
そこまでして僕のことを拒否るつもりなのか。敬語口調にも煽られ、僕は先輩に復讐の関係を持ちかけた。
「先輩が僕でやり逃げした事実、社内にばらまいてもいいんですか。」
先輩は卒倒しそうなほど青白い顔をして、それから僕の言葉に小さく喉を鳴らした。あの時の先輩ほど興奮するものはない。
せめてもの情けにと、ゲームで勝敗を決める余地を与えて。残念ながら僕が勝てるゲームでしか勝負はしていないのだから情けとは表面的なものだ。