Re:Romance
『僕も探してみます。』
『いい歳した女だし大丈夫だとは思うけど。』
抑揚のない声で最後に『よろしく。』と言ってから通話を切ったお兄さん。こうしてわざわざ知らない僕に連絡をしてくるあたり、彼なりに心配しているのだろう。
メーカー勤務の“五智川玲” スキル:即興アプローチと瞬間移動。
合コンでメッセージアカウントのやり取りをした覚えはあるものの、果たしてデート中に僕がしれっと横遣りを入れていいものなのか。
合コンの帰り道で五智川さんから略奪した事実を思い出し、一気に羞恥の念にかられる。
日和った僕は、五智川玲のメッセージ画面を一旦開いてから、羞恥を紛らわせるためのため息を吐いた。
「え? 実来君、五智川さんといい感じなの?」
「ぉわっ、て、高市さん。」
「色々あったようですがお元気ですか?」
「……まあ。元気ですよ。そちらは?」
「事務員一人にされて元気に見えると思う?! バカにしてんの大所帯の新車部営業マン!! クソっ」
高市歩子さんが隣の椅子を蹴った。元気そうだ。
その時、高市さんのベストのポケットでバイブ音が鳴り、高市さんがやたら嬉しそうにスマホ画面を見つめる。
「彼氏ですか。」
「彼氏歴、一週間なの。」
「ははは、見事な浅さ。いつまで続くことやら。」
「木叉さんはそんなんじゃないもん! 結婚も視野にって私に告白してくれたんだもん!」
「……木叉さん?」
五智川さんと同じメーカー勤務の、木叉さん?
今部署は違うけれど、同期で毎週のように飲んでいるという五智川さんと友達の?
「あ、ちょっと! 極秘なのに口滑らしちゃったじゃんバカ!」
そうか。木叉さんなら五智川さんの居場所を知っているかもしれない。
言いたい放題の高市さんはさておき、僕は木叉さんに連絡を入れてみようと、木叉さんとのメッセージ画面を開いてみた。
「なになに? 木叉さんに連絡取りたいの?」
スマホ画面を覗いてくる高市さんの無神経さに感謝すべきなのか。
里夏先輩のことが好きだとばれている手前、この際洗いざらい不安を払拭しようと思った。
「今、五智川さんと里夏先輩、一緒にいるみたいなんですけど。先輩、スマホも財布も持たずに五智川さんの車で出かけたらしくて。」
「そうなの? それってなに情報?」
「里夏先輩のお兄さんから連絡があって、なかなか帰ってこないから心配しているみたいなんです。」
「あー、なるほどね。」
高市さんが僕に玄米茶のペットボトルを渡して、自分のスマホをいじり始めた。そして木叉さんにメッセージを送ったらしい高市さんが、何かを思い出したように僕をみる。
「そういえば木叉さんに、五智川さんって好きなった人への執着度が強いから、叶恵さんに気を付けてねって言っといてねって言われてたんだ。」
「……」
うんともすんとも返せない言葉に、手に汗が滲み始める。
「大学生の頃にね、付き合っていた彼女を一ヶ月間自分の家から出さなかったことがあるらしいよ?」
「は?」
「大学生だから為せる技だよね!社会人だったら一ヶ月も会社無断欠勤したらクビになるもん。」
「そういう捉え方もあるんですね。」
為せる技というよりは、為せる災いとでも変換すべきか。