甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜


その日の夜。
いつものように寝付きの早い桜子を、左京はベッドの上で片肘をつきながら見つめていた。

(可愛らしいな)

あどけない寝顔に、思わず頬が緩む。

(けど、ドレス姿は本当に美しかった)

いつもそばにいた桜子がまるで知らない人のように感じるほど、今夜の桜子はキラキラとまぶしく輝いて見えた。

左京は自分の左手をじっと見下ろす。

パーティーで肩を抱き寄せた時の、桜子のなめらかな素肌の感触を思い出した。

そしてウエストを抱いた時の、ほっそりと艶めかしいボディラインも。

(いけない。俺はなにを考えている?)

触れなければ、まだ平気だった。

一緒に暮らしていても、ルームメイトのようなものだと思い込んでいた。

だが一度触れてしまったら……
頭ではなく、心と身体に焼き付いてしまった。

桜子は、魅力的な女性だと。

(だめだ。思い出せ、彼女と結婚した経緯を)

愛しているから、ではない。
いわば契約を交わすように、互いの価値観や結婚に対する利点を確認して、今に至った。

今後夫婦としての在り方や、どういう関係を築くかは想定していなかった。

ただ婚姻届を出すことが、ゴールであったから。

桜子が望めば、子どもをつくることも考えよう。

それについて話し合おうとは思っていた。

だがもし、桜子が望まなければ?
夫婦関係はいらない。
ずっとこのままでいいと考えていたら……

(それなら俺は、諦めるしかない。これ以上の彼女との関係を)

そう考えた途端、心の中に暗い影が射し込んだ気がした。

すぐ手の届くところにいる桜子。
愛おしいその頬に触れることも許されないのだ。

夫婦なのに。
夫婦だから。

(俺はなんと浅はかなことを……)

頭で割り切って結婚したことを、左京は今になって激しく後悔していた。
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