甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜
悩み
桜子の、いつもと変わらない日々が過ぎていく。

朝起きると二人で朝食を食べてから、マンションのロータリーで左京を見送る。

少し家事をしたあとは料亭に行き、夕方まで手伝うと、帰宅して夕食を作った。

帰ってきた左京と一緒に夕食を食べながら、他愛もない話をする。

左京は「家事も料理ももっと手を抜いて」と桜子を大切に気遣い、時折マンションのコンシェルジュにハウスクリーニングやケータリングを頼むようになった。

穏やかで幸せな日々。
だが桜子は、あることが引っかかっていた。

(左京さん、私が寝たあとに毎晩仕事をしてる。それもリビングで)

これまでは、左京が桜子よりも先に寝室に入っていた。

ベッドの上でパソコンや書類を広げていることはあったが、桜子が寝室に入って来ると「おやすみ」と声をかけてくれ、桜子は安心して眠りについていた。

だがここ最近、左京はリビングで仕事をしながら、桜子に「早く寝なさい」と言って寝室へ促す。

桜子は、一人冷たいベッドに潜り込み、どうしてなのかと心細さを抱えていた。

(いつもと変わりなく優しいのに、寝る時だけ以前と違う。左京さん、もう結婚生活が嫌になったのかな?)

そう考えると涙が込み上げてきた。

グズッと目元を手の甲で拭っていると、カチャリと静かにドアが開く。

「桜子? どうした?」

声をかけられ、桜子は慌てて顔をそらした。

「なんでもないです」

左京はベッドに近づいて来て腰掛けると、桜子の顔を覗き込む。

「桜子が眠れないなんて、なんでもない訳がない。どうしたんだ?」

優しく頭に手を置かれて、桜子は目を潤ませた。

「だって、左京さんがリビングにいて……。寝室に来てくれなくて」
「ああ、なんだ。怖くて眠れないんだな。悪かった。言ってくれれば良かったのに」
「え、あの……」

そういう訳ではないと続けようとすると、左京は桜子の頭をなでながら微笑む。

「これからは毎晩桜子が寝付くまでそばにいるから。安心して」
「寝付くまで?」

寝たらいなくなるの?と聞きたかったが、左京に「そうだよ。ちゃんといるから」と言われて、言葉を呑み込んだ。

「ほら、目を閉じて」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ、桜子」

まるで魔法の言葉のように、左京のそのひと言で、桜子は安心して眠りに落ちた。
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