甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜
桜子と一緒なら
「着いた、ロサンゼルス!」

快適な空の旅でたどり着いたロサンゼルス国際空港。

桜子は外に出ると空を見上げて深呼吸する。

「なんだか空気が違いますね。冬なのに暖かいです」
「そうだな。カラッと乾燥していて年中過ごしやすい気候だから、今度は夏にも来ようか」
「はい!」

明るい笑顔を浮かべる桜子は、とにかく可愛らしい。

左京は幸せを感じつつ、桜子に見とれないように気をつけながらタクシーに促した。

窓の外に流れる景色を、わくわくした様子で見つめる桜子に、思わず左京の表情も和らぐ。

まずは海沿いの街マリブにある、橘グループのホテルに向かった。

いわゆる観光地ではなく、ハリウッドスターやセレブが豪邸を構える落ち着いたエリアは、サーフィンの聖地でもある。

「海が見える! 緑もきれいで自然がいっぱいね」

桜子が子どものように目を輝かせた時、タクシーはホテルに到着した。

「桜子、着いたよ」
「えっ、ここ? なんてすてきなの 」

タクシーを降りる桜子の手を支えると、桜子はそのままポーッと、緑に囲まれた邸宅のようなホテルに目を奪われている。

「桜子、足元気をつけて」

そう声をかけた時、顔馴染みの日本人マネージャーが近づいて来た。

「左京様、ようこそお越しくださいました。こちらが奥様でいらっしゃいますね?」

にこやかに笑いかけられ、桜子は居住まいを正す。

「初めまして、桜子と申します」
「初めまして、マネージャーの藤原と申します。お目にかかれて大変光栄です。いやー、あの左京様がご結婚されたと聞いて、我々スタッフも感激しておりました。今回の滞在では、精一杯おもてなしをさせていただきます。さあ、では早速お部屋へどうぞ」

案内されたのは、海が一望出来るゴージャスなスイートルーム。

テーブルには大きな花が飾られ、フルーツの盛り合わせとシャンパンが用意されていた。

「左京さん、見て。海が目の前! 空の色と混ざりそうなきれいな色」

興奮気味の桜子に、マネージャーの藤原も目を細める。

「奥様にも、このホテルをお気に召していただけると嬉しいです。左京様、もうすぐ昼食の時間ですが、お食事のご用意はいかがいたしましょう?」

左京は、バルコニーから身を乗り出さんばかりに外の景色に目を奪われている桜子を見て、ふっと笑みを浮かべた。

「妻を連れて行きたいカフェがあるので、ランチはそこで。夕食までには帰ってきます」
「かしこまりました。ではハイヤーを手配しますね」
「いや、レンタカーをお願いします」

すると藤原は、意外そうに尋ねる。

「左京様が運転されるのですか?」
「ああ。彼女の好きなところへ、気ままにドライブしたくて。国際運転免許証も持って来ている」
「承知しました。すぐに車をご用意してまいります」

そう言って藤原が部屋を出て行くと、左京はバルコニーにいる桜子のもとへ向かった。

コツンと靴の踵が音を立て、桜子が振り返る。

風にふわりと揺れる前髪とワンピース。
左京を見て笑顔を浮かべる桜子が、たまらなく愛おしい。

「左京さん」

名前を呼ばれただけで、幸せが込み上げてきた。

(触れても許されるだろうか。好きだと言葉にしなければ……)

だが触れたが最後、気持ちがせきを切ったように溢れ出てしまうだろう。

ほんの少し肩を抱いただけでも、そのあと自分がどうなってしまうか分からない。

近いのに遠い、最愛の人。

「左京さん、とってもすてきなところね」
「ああ。桜子、ランチを食べに行かないか? いつか案内すると約束したカフェへ 」
「え? それってもしかして、おかわりシェイクのカフェ? 嬉しい!」

無邪気な笑顔は、なにものにも代えがたい。

(失いたくはない、絶対に)

切なさに胸を痛めながら、左京は桜子に微笑んで頷いた。
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