甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜
夫婦デート
翌日から、旅館の建設候補地の視察が始まった。

「この辺りはスキー板のままゲレンデに出入り出来るスキーイン、スキーアウトのホテルが人気だが、橘の旅館は静けさを売りにしたい。ゲレンデから少し離れたエリアに建て、土地が安い分、宿泊料金を抑えてご提供する」

門倉たち社員を前に話をする左京を、桜子は少し離れたところからじっと見つめる。

(左京さん、かっこいいなぁ)

ぽーっと見惚れてしまい、慌てて頬を両手で押さえた。

(どうしよう、ふやけた顔になっちゃう)

手袋をはめた手で自分の頬をつまんでいると、ふと視線を上げた左京が、ん?とばかりに桜子に優しく微笑む。

(ひゃっ、なんか胸が……キュウって)

うつむいてドキドキする胸に手を当てていると、「桜子」と左京に呼ばれた。

「はい」
「おいで」

お、おいで?と桜子は顔を赤くする。

(そんな、社員の皆さんがいらっしゃるのに。しかもなんだか甘い声で)

固まっていると、左京が近づいて来た。

「桜子、顔が赤いな。熱でもあるのか?」

そう言って桜子の額に手を当てる。

「ないです! 全然、熱なんて1℃も」
「いや、それもいかんだろ。36℃はないと。んー、やっぱり熱いな。心配だから、もうホテルに帰るか」
「いえいえ、まさかそんな。本当に熱はないです。ちょっと、かっこいい左京さんにのぼせてしまっただけで……」

え?と首をひねってから、左京は嬉しそうに口元を緩めた。

「そうか、それなら良かった」

良くはないが、とにかく話題を変えようと、桜子は左京が手にしているタブレットに目をやる。

「わぁ、これが旅館のデザインですか?」
「ああ。まだ大まかなCGだけどな」
「これって、もしかして数寄屋造りですか?」

すると門倉が「奥様、よくお分かりですね!」と感心した。

「あ、2m離れてお送りしておりますよ。ここアスペンの高級別荘地は『マウンテン・ソフィスティケーション(山の洗練)』と言って、天然の木や石を使った自然と調和したデザインが主流なんです。日本の数寄屋造りも、自然の素材をありのまま活かしている点は同じですが、アスペンの建築物が大自然の力強さを感じさせる一方、橘の旅館では日本らしい『わび・さび』を感じていただければと」

そうなのですね、と桜子は深く頷く。

「部屋には雪見障子や露天風呂、ロビーには暖炉や囲炉裏も。あとは桜を植樹して回廊を作り、夜にはライトアップも考えています」
「なんてすてき! ここはぐるっと雪山に囲まれていて、どのお部屋の雪見障子からも雪景色が楽しめますね。こんな感じかな?」

桜子はその場にしゃがむと、顔の前に両手をかざして下から雪山を見上げた。

「絵画みたいにきれいな雪景色。ね? 左京さん」

笑顔で振り返ると、左京が無言のまま身を屈め、桜子の両脇に手を入れて抱き上げた。

「えっ、なに?」

一瞬宙に浮いてからストンと地面に下ろされ、桜子はキョトンとする。

左京はそんな桜子の頭に手をやって、耳元でささやいた。

「桜子、それ以上可愛くなるな」
「はっ? え?」

ポカンとする桜子を背中で隠すように、左京は門倉たちを振り返ってまた仕事の話を始めた。
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