甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜
「桜子、疲れただろう? ゆっくり身体を温めておいで」

パーティーが終わると、左京は桜子の肩を抱いて部屋に戻り、バスタブにお湯を張る。

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」

桜子は色留袖だけ脱いでハンガーに掛けてから、バスルームに向かった、

左京は、ふう、とソファに背を預けると、パーティーでのことを思い出す。

目に焼きついたきれいな桜子の着物姿と、桜子に目を奪われる男性たち。

(誰にも触れさせたくない、桜子にだけは)

ようやく思いが結ばれたら、今度はどうしようもないほど独占欲に襲われた。

(桜子……。大切にしたいのに、この手で全てを奪いたくなる)

自分の手のひらをじっと見つめてから、グッと握りしめた。

(桜子は、許してくれるだろうか。それとも、今はまだ拒絶される?)

おもむろにジャケットのポケットに手を入れ、いつも持ち歩いているリングケースを取り出した。

そっと開いてみると、2つ並んだマリッジリングがキラリと輝く。

それは未だにタイミングを逃してはめられずにいた、二人の結婚指輪。

(言えばいいのに、これを着けようと)

一体、なにを気にして言い出せないのか?
それは……

(きっと自分の中でまだ怖がっているのだろうな。桜子に拒まれたらどうしようと)

これまで恋人はいなかったと言っていた桜子は、抱き寄せて耳元で愛をささやくだけで頬を染める。

唇を重ねるだけのキスでも、受け止めるのに精一杯。

そんな桜子は清らかで純真で、まるで真夜中にしんしんと降り積もった真っさらな雪のよう。

新雪を足で踏みしめて汚す背徳感。
今の自分の心境はそれに近い。

(桜子は、まだその先を望んでいないだろう。俺が欲望のままにこの手で抱けば、桜子は恐怖を感じ、心も身体も傷ついてしまうかもしれない)

そう考えると、やはりまだだめだと己に言い聞かせる。

理性と本能のせめぎ合い。
いつまで自分を律することが出来るだろうか。

(桜子……。君をただ心から愛している)

それだけは揺るぎない事実だった。
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