甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜
桃香がちょうど3歳2か月になった5月3日。
紅葉から「無事に男の子が生まれた」と嬉しい知らせが届いた。

その3日後に桜子の妊娠6か月の健診が同じ病院であり、診察を終えると左京と一緒に紅葉の個室を訪ねる。

「失礼しまーす。お姉ちゃん?」
「あ、桜子。左京さんも。来てくれてありがとう」
「出産おめでとう。身体は大丈夫?」
「うん、だいぶ回復したよ」

左京が「おめでとう」とピンクの花束を差し出すと、紅葉は感激の面持ちで受け取った。

「わあっ、ありがとう、左京さん。お花なんて、さっすがー。でも私が持つより、左京さんが持つ方が絵になるわね」
「ははっ、どういう意味?」

笑い合う二人の横で、桜子はソワソワと紅葉のベッドの横に置かれたベビーコットに目をやる。

「ね、お姉ちゃん。赤ちゃんは?」
「あ、そうね。今抱っこするね」

紅葉は花束をテーブルに置くと、立ち上がってベビーコットに身を屈めた。

「はーい、初めまして。息子の和志(かずし)です」

紅葉が腕に抱いた赤ちゃんに、桜子と左京は目を細める。

「ひゃー、可愛い!」
「ああ。まさに天使だな」
「和志くーん、こんにちは」
「いい名前だな、和志くん」

顔を寄せ合って和志の顔を覗き込む桜子と左京に、紅葉はそっと和志を抱かせた。

「わっ、緊張する」
「桜子、見てこの小さい手」
「ほんとだ。ああ、もう、どこもかしこも可愛い」

紅葉はそんな二人に笑ってから、和志に話しかける。

「和志、もうすぐいとこが生まれてくるよ。同じ学年だねー」
「あ、そうか。仲良くしてね、和志くん」
「そう言えば桜子、さっき健診だったんでしょ? 性別分かったの?」
「うんとね、左京さんと相談して、生まれてくるまでお楽しみにしようって」
「そうなんだ! でも男の子だと思うよ。ほら、桃香がそう言ってたから」

ああ、と桜子も思い出し、左京に伝えた。

「桃ちゃんね、私が妊娠してるって1番に気づいてくれたの。だからあんなに早く分かったのよ」
「そうだったのか、すごいな」
「それでね、桃ちゃんが和志くんの性別も男の子って当てて、『さっこちゃんの赤ちゃんと一緒』って」
「それならこの子も男の子だな」

左京は桜子のお腹に手を当てて、和志と見比べる。

「こんなに可愛い赤ちゃんが、俺たちのところにも来てくれるんだな」
「うん。楽しみね」
「ああ、待ちきれない」

見つめ合って微笑む二人に、紅葉が「ラブラブすぎて暑いんですけど?」と苦笑いした時、コンコンとドアがノックされて、清志と一緒に桃香がやって来た。

「あ、さっこちゃん!」
「桃ちゃーん」

桜子がしゃがんで頬ずりすると、桃香は左京にもにっこり笑う。

「こんにちは、さっきょさん」
「う、うん。こんにちは、桃ちゃん」

さっきょさんと呼ばれてタジタジになる左京に、桜子が笑いをこらえていると、左京は清志にも「おめでとうございます」と言葉をかけた。

「ありがとうございます、左京さん。お二人の赤ちゃんも、楽しみにしていますね。桜子ちゃん、身体を大切にな」
「はい。ありがとう、清志さん」

今こうして、なんのわだかまりもなく清志と話せるのは、左京のおかげ。

桜子は改めて、左京に感謝の気持ちでいっぱいになった。
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