アラフォーバツイチ、花ざかり。
 きっぱり言うと、彼はとてもつらそうにまつ毛を伏せた。

 樹がどれだけ変わろうが、反省しようが、もう遅い。彼への無償の愛情は、離婚届を出した瞬間に葬ったも同然なのだから。

 せめてあの時に、今みたいに必死になってくれていたら、また未来は違っていたかもしれないのに。

「どうして、もっと早くに気づいてくれなかったの……。変わるなら、一緒にいたあの頃に変わってほしかった」

 瞼の裏がじんと熱くなる。あなたとのことではもう涙は枯れたはずなのに、また泣きそうになるとは思わなかったよ。

 瞬きをして涙腺を引きしめ、財布からお金を大雑把に取り出してテーブルに置く。樹はすがるように私を見つめて引き留めようとする。

「マコ……!」
「私があなたとやり直すことはない。ごめんね」

 まともに顔も見ずに、私は唇を噛みしめて席を立った。足早にドアのほうへ向かい、傘を開いてさっきよりも強くなってきた雨の中に飛び出す。

 彼と一緒に生きていた幸せな頃の思い出が浮かんでは消えて、やりきれない気持ちでいっぱいになった。どう転んだって、決してあの日々には戻れない。

 この胸のひどいざわめきも、こぼれ落ちそうな涙も、傘に当たる無数の雫がごまかしてくれる。

 雨降りでよかったと思いながら、ひとり濡れた街を歩き続けた。


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