アラフォーバツイチ、花ざかり。
 彼がニッと口角を上げ、私はぴたりと動きを止めた。聞かれていたのか……なんだか恥ずかしい。

 でもそう考えているのは本当なのに、自分の人生にはあまり期待できない。男性のことに関しては特に。

「私にはドラマチックな展開は無縁ですよ。諦めが肝心とも思ってますし」
「いや、うっちー諦めるような年じゃないって。僕も含め、まだまだこれからさ。マイホームも建てられるよ」
「夢が大きくていいですね、社長は」
「少年の心を忘れない男なんで」

 自分で言う自己肯定感高めな彼に、自然に笑いがこぼれた。このポジティブで温和な性格のおかげで、皆に愛されている社長なのだ。

 彼は見学会の様子を見るため別件の仕事の合間にここへ寄ったらしく、社員の皆に声をかけて去っていった。

 玄関に入りながら腕時計を見ると、午後三時を回ったところ。見学会は四時までなので、新たに来るお客様は少ないだろう。

 家の中ではまだ見学している人がいて、もうひとりの後輩アドバイザーがご家族の案内をしているようだ。その中で、ひとりで来ている男性が、床と壁の境目にある巾木と呼ばれる部分をじっくりと眺めている。

 一般の方なら誰も気に留めないようなそこになにかあっただろうかと、少し不思議に思い話しかけてみる。

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