深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった

第四話 境界線が滲む

 十一月にもなると、中目黒の朝は少しずつ冷たくなっていて、目黒川沿いの木々が色づき始めていた。

 季節の変わり目は、いつも後から知る。
 それが社畜というものだと思っている。

 九条とは、気づけば毎日顔を合わせるようになっていた。

 毎日、といっても、昼間の時間ではなく、ほぼ深夜、それから時々朝。

 マンションの通路で、エレベーターで、カフェで。

 たとえ昼間の顔を知らなくても、深夜の時間だけで、その人の本音が少しだけ分かる気がする。
 LAMPに通い始めて二ヶ月で、柚子はそれを学んだ。

 九条は相変わらず、ぽつぽつと言葉を零す。
 まるで独り言を言うように。

「部屋にいました」
「散歩してました」
「考えごとをしてました」

 原則的に、LAMPに置ける暗黙のルールなので、自分から話さない以上、こちらからは聞かない。

 しかし九条との会話は、他の誰かと話す時よりも、ずっとずっと短い。

 もしかして――避けられているのかも?

 カフェで顔見知りになった相手が隣に偶々住んでいたなんて、確かに気まずい偶然だと思う。

 日常を置いてくる非日常の場所で、知り合った相手と、日常的に顔を合わす。

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