深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
ずっと、こらえていた。
あの豪華すぎるスイートルームのシャワー室で抱いた違和感も、成城の家の広すぎるベッドで感じた孤独も。
そして今夜、光り輝く会場の端で、遠い世界の住人である九条の横顔を見つめた時の、あの身を切るような絶望感も。
全部、自分の普通を守るために、なかったことにして笑っていた。
それなのに。
つまらない嫉妬心。
子供みたいな癇癪。
柚子が必死に繕っていた仮面をすべて粉々に壊してしまった。
琥珀色のカモミールティーが、いつもみたいにカウンターテーブルにことりと置かれる。
柚子はかじかんだ両手でそのカップを包み込む。
立ち上る湯気が、こわばった顔を優しく解きほぐしていく。
「……何があったか、話せる?」
香奈さんが隣の席に静かに腰を下ろし、寄り添うように聞いた。
柚子は視線をカップの中に落としたまま、数秒の間を置いて、震える声で言葉を絞り出した。
「……九条さんと、喧嘩みたいになって」
「九条さん!?」
トシさんが椅子を鳴らして声を上げた。
「付き合ったの結局!? いつから? 最近二人して顔見ないとは思ってたけど」
「……はい」
「いつから」
「地震の後、くらいから」
「ええっ! 知らなかった!」
「トシさん、声が大きいです」
香奈さんが窘めるように言ったが、トシさんは「だって、お祝いしないとじゃん……」と落ち着かない様子だ。
それを結城さんが「トシさん」と一言で制すと、ようやく店内に静寂が戻った。
「続けてください」
結城さんに促され、柚子はカモミールティーを一口含んだ。
花の香りが鼻に抜け、喉の奥の塊が少しだけ溶ける。