One year left -家族ごっこ-

【嫉妬】

ワイパーの乾いたシートが、フローリングの埃を静かに巻き取っていく。


お母さんは一時間前、買い物に出かけた。


一人きりになったリビングで、私は黙々と掃除をこなしていく。


お昼前の高い太陽光が窓から差し込み、床を真っ白に照らし出していた。


まぶしい床の上に、ぽつりと私の影が落ちる。


背後から、不意に声が降ってきた。


「明日、予定ないだろ?」


振り返ると、碧くんがすぐ近くに立っていた。


シャンプーの瑞々しくて清潔な匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。


まだ少し湿り気を帯びたシルバーの髪が、彼の首元で優しく揺れた。


「明日? 掃除して、洗濯して、課題して、料理の手伝いをして……」


淡々と予定を並べる私を見て、碧くんは小さく笑う。


彼はさらに一歩、私との距離を縮めてきた。


「岳と彼女と、俺と萩花で、遊びに行かない?」


身体が、わずかに強張る。


「今、予定立ててるんだけど。どこに行きたい?」


普通の高校生みたいなことなんて、考えることすら許されないはずだった。


けれど、脳裏の奥の暗闇に、小さな青い光が灯る。


記憶の底にある、もうほとんど残っていない遠い景色。


碧くんとの距離が、私の内側の熱をじわりと呼び起こしていく。


「海……」


言葉がこぼれ落ちた瞬間、心臓の鼓動が静かに跳ね上がった。


「じゃ、海に決まりだな」


碧くんは口角を上げて、ポケットからスマホを取り出した。
< 202 / 354 >

この作品をシェア

pagetop