One year left -家族ごっこ-

【嫉妬】

ワイパーの乾いたシートが、フローリングの埃を静かに巻き取っていく。


お母さんが買い物に出かけてから、三十分。


一人きりになったリビングで、ただ黙々と掃除をこなす私の手元を、お昼前の高い太陽光が真っ白に照らし出していた。


まぶしい床の上に、ぽつりと私の影が落ちる。


その静寂を切り裂くようにして、背後から不意に低い声が降ってきた。


「明日、予定ないだろ?」


振り返った視線の先、すぐ近くに碧くんが立っていた。


シャンプーの瑞々しくて清潔な匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。


まだ少し湿り気を帯びたシルバーの髪が、首元で優しく揺れていた。


「明日? 掃除して、洗濯して、課題して、料理の手伝いをして……」


淡々と予定を並べる私を見て、碧くんは小さく笑うと、さらに一歩、距離を縮めてきた。


「岳と彼女と、俺と萩花で、遊びに行かない?」


ドクン、と身体がわずかに強張る。


「今、予定立ててるんだけど。どこに行きたい?」


普通の高校生みたいなことなんて、考えることすら許されないはずだった。


けれど、ずっと遠い昔に置き去りにしてきた、もうほとんど残っていない景色のなかに、小さな青い光が灯る。


「海……」


言葉がこぼれ落ちた瞬間、無意識に漏らした自分の声に、ただ動揺していた。


「じゃ、海に決まりだな」


碧くんは満足したように口角を上げて、ポケットからスマホを取り出した。
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