One year left -家族ごっこ-
バスのドアが開き、外へ足を踏み出す。


ぬるい風と共に、潮の匂いがふわりと鼻腔を突いた。


歩くにつれて、足元の硬いアスファルトが、不確かな砂へと変わっていく。


サンダルの隙間に、温かい砂の粒子が容赦なく入り込んできた。


乾いた優しい摩擦が、皮膚を通じて脳へ響いていく。


そして視界が一気に開けた。


ぎらぎらとした太陽光を浴びて、すべてを焼き尽くすほどに光る、圧倒的な青。


楽しそうな家族連れの笑い声。


寄り添いながら歩く恋人たち。


波間で楽しそうにはしゃぐ声。


まばゆいほどの“幸せ”が、そこには溢れていた。


あたたかい、海。


胸の奥の暗闇が、じわりと熱を帯びていく。


お父さんとの、もう消えかけていた記憶の向こう側。


私は今、碧くんの熱に引かれて、確かに境界線の外側に立っていた。
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