One year left -家族ごっこ-

【焦燥】

ぬるい湿気を含んだ重い空気を押し分けるようにして、自転車が走る。


レッスンを終えたばかりの私の身体には、まだ微かなステップの残響が残っていた。


私は後ろに乗って、碧くんの広い背中をじっと見つめていた。


守られているような安心感と、ここから遠く離れていく未来。


やり場のない寂しさが胸を締め付けていく。


私はその圧迫感を振り払うようにして彼の背中に向かって声をかけた。


「とうとう明日だなぁ。職場見学」


「……アミューズメント施設、だっけ」


「そうだよ、よく覚えてたね」


「パチンコ屋だろ?」


「うん」


正面から風を受ける彼の頭部から、絹糸のような髪がなめらかにこぼれ落ちて、私のすぐ目の前で白く波打っている。


「なんで、パチンコ屋にしたの?」


「給料が良かったから。それに、マンションの家賃の三分の二を会社が負担してくれるんだよ」


「ふーん」


「あとは、福利厚生もしっかりしてるし」


「けど、客は男ばっかりだよ」


ぽつりと落とされた声の低さに、胸の奥が微かにざわつく。


「そうなの?」


「制服だって、ミニスカートで脚丸出し」 


「そうなんだ」


「毎日、男たちに見られるよ」


碧くんのなかに澱む暗い熱を察したけれど、私はその気配に気づかないフリをした。


「制服までは、まだ分かんないけど……でも、お仕事だし、私は大丈夫だよ」


「ふーん」


彼の低い呟きが、逃げ場のない夜風に消える
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