One year left -家族ごっこ-
それから移動して、環状線を降りた瞬間から、世界は無機質な灰色の音で満たされていた。


駅の改札を抜けて、巨大な交差点の前に立つ。


地面が見えないほどに波打つ、無数の見知らぬ人々の流れ。


すれ違う人々の乾いた歩調。


信号が青に変わった瞬間、その膨大な足音がアスファルトを一斉に叩いた。


交差する誰一人として、隣を歩く者の顔を見ようともしない。


「うわぁ、すごい人だね。みんな、はぐれないようにね」


おじさんが振り返り、人混みに圧倒されたような声を出す。


「本当ね。でも、なんだかワクワクしちゃう。ねえ、あそこにあるビル、お洒落なお店がたくさん入っているみたいよ」


おじさんの手を引いてお母さんは楽しそうに歩調を早める。


ガラス張りのドアを押し分けると、ハイブランドの香水がかすかに混ざった、心地のいい冷気が全身を包み込んだ。


外のアスファルトの熱気で火照っていた肌を、生き返らせるような涼しさ。


天井のダウンライトに照らされた店内は、まるで美術館のように静かで、洗練された空間が広がっている。


今まで入ったこともないような高級な場所に、私は緊張して思わず足を止めてしまった。


綺麗に並ぶディスプレイと独特の静けさのなかに、自分が紛れ込んでいいのだろうかと気後れする。


そのとき、後ろからそっと、優しい温もりが届いた。


碧くんの大きな掌が、私の背中を促すように優しく前へ押し出す。


振り返らなくても、彼の体温がすぐ近くにあるだけで、強張っていた私の身体が自然と解きほぐされていくようだった。


「あら、このチャーム可愛い。お財布につけたら素敵ね」


お母さんが、棚に並んだ小さな革細工を手に取る。


お母さんの顔は、少女のように純粋に輝いていた。


「本当だね。うん、すごくよく似合っているよ。これにしようか」


おじさんが、純粋な笑顔で微笑み、レジへと向かう。


お母さんはおじさんの腕に手を回し、満足げな微笑みを浮かべていた。
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