One year left -家族ごっこ-
碧くんは、あのひとの前でも、あんな風に甘えたりしたのだろうか。 


私を包み込んでくれた熱を、あのひとの肌にも同じように注いだのだろうか。 


あのひとだけを見つめて、優しいキスをして、どんな顔で、どんなふうにその肌を撫で上げたのだろう。


そう思った瞬間、目の前が真っ暗になって、息の吸い方が分からなくなる。


想像したくなかった生々しい痛みが、鋭い針のようになって私の胸の奥をざくざくと刺し貫いていく。


あのとき、素直にすべてを尋ねていれば良かった。


そうしたら、こんなにも苦しくて窒息しそうな感情に一人で溺れなくても良かったかもしれないのに。


けれど、時間は巻き戻らない。 


「碧くん、萩花、お昼できたわよ!」 

 
階段の下から、お母さんの明るい声が聞こえた。 


碧くんから少しだけ遅れて、トントンと静かに階段を下りる。


私の前を歩く彼の広い背中は、いつもと何も変わらない。


だけど、今の私にはそれがたまらなく遠いものに感じられた。 
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