One year left -家族ごっこ-

【渇望】

夏休みの課題を開いたまま、指先はシャーペンのひんやりとした金属に触れていた。


部屋を満たす冷房の風のなか、カーテンの隙間から差し込む真夏の強い光だけが、机の上をせわしなく照らしている。


どれだけ文字を見つめても、印刷された問題文はぼやけて、少しも頭に入ってこない。


喉がぎゅっと縮まって、息が詰まりそうになる。


柔らかなブラウンの髪を揺らしていたあの女のひとが、瞼の裏にいつまでも焼きついて消えなかった。


あのとき、どうして碧くんを突き放してしまったんだろう。


どうして、誰、って素直に聞けなかったんだろう。 


今さら彼のスマホがどこかで震える想像をするだけで、心臓の音が、頼りなく速さを増していく。


連絡は、もう届いたのかな。


お盆休みにあのひとがこの街へ帰ってきたら、碧くんは、いったいどんな顔をして会いに行くんだろう。 


嫌だ。お願いだから、もう何も考えたくない。


きつく目を閉じても、私の知らない二人の時間が、消えない小さな火の粉になって、思考をじりじりと焦がし続けた。
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