One year left -家族ごっこ-
「星来さんって人のこと、本気で好きだったんじゃないの……?」


「全然」


「でも、私のこと、ずっと無視してたじゃない……」


「萩花がスマホばっかり目で追って、俺に話しかけなかったんだろ?」


視界が、一瞬で歪んだ。


十日間の飢餓も、おじさんの車を飛び出した衝動も、すべては碧くんの手のひらの上だったのだと思い知る。


安堵なのか悔しさなのかも分からない涙が、堰(せき)を切ったように次から次へと頬を伝い落ちる。


私はただ、子供のように声を殺して泣くことしかできなかった。


「なんで、帰って来たの?」


「……い、行かないでって、言いたくて、」


密閉された空間に淀む熱気の中で、喉の根元にこびりついていた本音だけが、涙と一緒にぼろぼろと床にこぼれ落ちていく。


「どこに?」


「星来さんのところ…… 碧くんをとられたくなかった……っ!」


しゃくりあげる声のせいで、もうまともに息すらできない。


彼の琥珀色の瞳が、私の心の奥の、最も暗い深淵(しんえん)をじっと覗き込んでくる。


この逃げ場のない洗面所で、私のすべてをなめらかに包囲していた。


もう、この猛獣からは逃げられないのだと、本能が甘く悟る。
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