One year left -家族ごっこ-
この十日余り、まともな睡眠なんて取れていなかった。


枕元にあるフラミンゴのぬいぐるみを引き寄せる。


ベッドに横たわった瞬間、すべての緊張が解けた身体は、底のない深い眠りの中へと落ちていった。


どれほどの時間が経ったのだろう。


「――萩花」


耳元に触れるような、低く甘やかな声が暗闇に溶ける。


自分の名前を呼ぶその響きに手繰り寄せられるように、ゆっくりと意識の底から浮上した。


静かに上半身を起こすと、冷房で凍てついた部屋の空気のなかで、ベッドの端に大きな影が腰掛けている。


「……あ、れ」


寝起きの掠れた声で、その影へと視線を向けた。


シルバーの髪が、窓の外から差し込む夜の街灯に白く透けている。


碧くんが、暗闇の中で私を見つめていた。


「みんなは……?」


「あいつらなら、花火を見に行った」 


彼は短く応じると、私の腕のなかに収まったままのピンク色の塊を撫でた。


「フラミンゴと眠ってたのか」


「うん。毎日、一緒に寝てるよ」


言いながら、ぬいぐるみにそっと頬を寄せると、彼の息遣いが甘く緩んだ気配がした。
< 265 / 406 >

この作品をシェア

pagetop