One year left -家族ごっこ-
「萩花は優しすぎる」


私の背中に回された彼の大きな手のひらは、何度も、何度も、私の長い髪の毛先へと向けて、私を宥(なだ)めるように優しく滑り落ちていく。


「俺たちが初めて出会ったときも、萩花はこんなふうにして、母親のために涙を流したよな」


彼がしばらく髪を撫で続けてくれたおかげで、私のひきつるような呼吸も、ようやく少しずつ穏やかさを取り戻していく。


「……懐かしいね。あの頃は、碧くんのこと大嫌いだったんだよ?」


私は彼の胸元からゆっくりと顔を上げて、かすかに微笑みを返した。


けれど、せき止められない悲しさが目元から溢れて、また新たな雫が静かに頬を伝っていく。


「……マザコンなんて言って、悪かった」


碧くんは大きな両手で私の頬をそっと包み込むと、その長い指先で、流れる涙を優しく拭ってくれた。


私の目をまっすぐに見つめる彼の琥珀色の瞳は、いつになく真剣で、どこまでも深い。


「正直、俺は今でも萩花の母親が、萩花を恨んでるようには見えない。けど、おまえの優しさに感謝することもなく、まるで当たり前のように搾取していることだけは、見ていて分かった」


彼の言葉が心の一番深いところに触れた。


張り詰めていたものが解けるように、絶え間なく涙が溢れ出してしまう。


碧くんはその一粒一粒を受け止めるように、何度も、何度も、優しい手つきで私の頬を拭い続けてくれた。
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