One year left -家族ごっこ-
「俺の母親と萩花の母親には、一つだけ共通点がある。それは、自分の子供に興味がないってことだ」


碧くんは大きな腕を私の腰へと回し、そのあたたかい身体で私を優しく抱きしめた。


「ずっと、寂しかっただろ」


耳元に降ってきた彼の低い声に、私の喉の奥がせつなく跳ね上がる。


彼の広い背中に腕を回して、その温もりを求めるように強く抱きしめ返した。


「うん、ずっと、寂しかった……」


声に出したとき、私はひとつの本質に気づいてしまった。


自分はただ、お母さんに愛されたかっただけだったのだ。


尽くし続けていれば、お母さんはいつか私が生きていて良かったと、一度でもいいから抱きしめて認めてくれるのではないか。


私は哀れなほどに、その温もりを求めていたのだ。


お母さんに執着し、その世界のなかにしがみついていたかったのは、私自身だった。


「萩花がいれば、俺は寂しくない」


私の背中を包み込んでいた彼の大きな腕に、不器用なほどの強い力が込められる。


隙間なく覆われて、私は彼のあたたかさのなかに深く溺れていく。


「私も碧くんがいれば、寂しくない」


彼の広い背中の生地を握りしめ、私も今あるすべての想いを込めて、その身体を抱きしめ返した。


「……もう、母親という檻に囚われるな」


頭上から降ってきた碧くんの躊躇のない宣告が、私の心を静かに揺さぶる。


涙でひどく滲んでいた視界のなかで、碧くんのまっすぐな言葉だけが、暗闇を切り裂く光のように私を優しく照らし出していた。


私はお母さんの檻に閉じ込められていたわけではなかった。


自ら檻を作り出し、その冷たい暗がりのなかに、進んで身を潜めていただけだったのだ。
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