One year left -家族ごっこ-
夕暮れ、疲労感と汗の残滓(ざんし)を纏って帰宅し、重い扉を開けたときだった。
薄暗い玄関の向こう、リビングへと続く廊下の境目に、お母さんが立っていた。
おじさんと碧くんは、男二人で出かけているのだろう。
いつも玄関を狭くしている大きなスニーカーと、おじさんの革靴が、見当たらなかった。
冷たい静寂だけが、誰もいない家の中に重く満ちている。
「ただいま」
声をかけても、お母さんは何も答えなかった。
ただ無言のまま、私をじっと見つめている。
靴を脱ごうとした私の頭上に向かって、棘のような言葉を投げつけてきた。
「最近学校から帰ってくるのも遅いし、土日までそうやって遊び歩いて、だらしないわよ」
仮面が外れ落ちたお母さんに言葉を向けられるのは、本当に久しぶりのことだった。
自分が、いま、確かに彼女の瞳に映り込んでいる。
背筋を伸ばして、お母さんの凍てつくような目を真っ直ぐに見つめ返した。
「お母さん、私ね、友達と文化祭のステージに向けてダンスの練習をしてるの。すごく楽しい」
そう言って、本物の笑顔を浮かべてみせた。
「もう今まで通り、放課後すぐに帰ってきてお母さんのお手伝いはできない。毎週土日も出かけると思う。でも、自分のことだけは、ちゃんと自分でするから」
毅然とした眼差しを向けたままでいると、お母さんの瞳が、一瞬だけ細かく揺れたような気がした。
「……そう。いいわよ、別に」
彼女はそれ以上、何も言わずに私から視線を外した。
薄暗い玄関の向こう、リビングへと続く廊下の境目に、お母さんが立っていた。
おじさんと碧くんは、男二人で出かけているのだろう。
いつも玄関を狭くしている大きなスニーカーと、おじさんの革靴が、見当たらなかった。
冷たい静寂だけが、誰もいない家の中に重く満ちている。
「ただいま」
声をかけても、お母さんは何も答えなかった。
ただ無言のまま、私をじっと見つめている。
靴を脱ごうとした私の頭上に向かって、棘のような言葉を投げつけてきた。
「最近学校から帰ってくるのも遅いし、土日までそうやって遊び歩いて、だらしないわよ」
仮面が外れ落ちたお母さんに言葉を向けられるのは、本当に久しぶりのことだった。
自分が、いま、確かに彼女の瞳に映り込んでいる。
背筋を伸ばして、お母さんの凍てつくような目を真っ直ぐに見つめ返した。
「お母さん、私ね、友達と文化祭のステージに向けてダンスの練習をしてるの。すごく楽しい」
そう言って、本物の笑顔を浮かべてみせた。
「もう今まで通り、放課後すぐに帰ってきてお母さんのお手伝いはできない。毎週土日も出かけると思う。でも、自分のことだけは、ちゃんと自分でするから」
毅然とした眼差しを向けたままでいると、お母さんの瞳が、一瞬だけ細かく揺れたような気がした。
「……そう。いいわよ、別に」
彼女はそれ以上、何も言わずに私から視線を外した。