One year left -家族ごっこ-
レッスンを終えて建物の自動ドアをくぐり抜けると、九月の夜風が、火照った肌を優しく撫でていった。


スクールの入り口を出てすぐ、白い街灯の下に、私を待ってくれている見慣れた碧くんの姿が見えた。


彼を目に捉えた瞬間、足取りは自然と軽くなる。


「お疲れ」


「うん、ありがとう」


碧くんはいつも通り堂々とした佇まいのまま、私の歩調に合わせるようにして、みんなで並んで駐輪場へと向かって歩き出す。


それぞれの自転車の鍵を外し、夕紗たちと「また明日ね」と手を振り合って、彼女たちの背中が夜の闇へと消えていくのを見送った。


完全に二人きりになった暗がりのなか、おもむろに彼が口を開いた。


「今日、すごく激しく踊ってたな」


隣に立つ彼のどこか労うようなあたたかい響きに、スタジオの外の窓から、私のことを見守ってくれていたのだという愛おしさが込み上げる。


「うん。今日から冬のイベントの課題曲の振り入れが始まったの。……凄く難しいけど、絶対に自分のものにしてみせるから」


少しだけ顎を引き、挑戦的な眼差しで見つめ返すと、碧くんは目を細め、その琥珀色の瞳の奥に確かな信頼を湛えた。


「……格好良すぎ。そのまま、誰にも負けるなよ」


言葉の余韻が夜風に溶けた、次の静寂のなか。


彼の大きな手のひらが、吸い込まれるように私の頭へと優しく置かれる。


張り詰めていた心を解きほぐすように、何度も、ポンポンと頭を撫でてくれた。


彼の手のあたたかさが全身へと深く染み渡り、私の心に、安心感がじわりと広がっていった。
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