One year left -家族ごっこ-
「ありがとう」


広い背中に向かって、小さくお礼を言った。


「なにが?」


彼は振り返ることもせず、低い声でそう呟く。


「私にお家のなかを案内してくれるってことは、碧くんも同居には賛成ってことだよね」


喉の締めつけがようやく解け、安堵から小さなため息が漏れた。


リビングを出た瞬間、私は張り詰めていた感情を緩め、初めて深く息を吸い込めたような解放感に満たされていく。


大きな窓から差し込む春になりたての昼下がりの薄青い陽光が、長い廊下のフローリングに白い光の帯を淡く焼き付けていた。


今までずっと、お母さんのことだけを一番に考えて生きてきた。


女手一つで苦労してきたお母さんの負担を少しでも減らすために、家事は率先してやってきたし、お店の手伝いだってしてきた。


高校生になってからは、少しでも家計の足しになるようにと、ずっとバイト三昧の日々を送ってきた。


おじさんとの交際だって全力で応援してきたし、プロポーズされたと聞いた時は、お母さんよりも自分のことのように喜んだかもしれない。


ふいに、前を歩いていた碧くんの足が完全に止まる。


柔らかな日差しが広がる廊下の真ん中。


気がつけば、彼が感情の読めない瞳で、冷ややかに私を見下ろしていた。
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