計算外の、となりの席。

高偏差値のバグ、継続中

入学式当日。
筑梅(つくばい)の校門をくぐる僕の周りには、なぜか視線が集まっていた。
「ねえ、あの人……開成蹴りの神童でしょ?」
「顔、整いすぎじゃない? モデルかと思った」
ひそひそ声が聞こえるけれど、僕はネクタイの結び目の角度が、左右で数ミリずれていることの方が気になっていた。
実は、塾の祝賀会でも、知らない女子から手紙を渡されたことがある。
『ハルくんのことが、ずっと気になっていました。付き合ってください』
その時、僕は大真面目に答えてしまった。
「『気になっている』の定義が曖昧です。僕のどのデータに興味を持ったんですか? あと、今は中高一貫のカリキュラムを先取りする時期なので、交際に割くリソースはありません」
……相手は泣きながら走り去った。僕は何一つ間違ったことは言っていないはずなのに、なぜか塾の先生に「お前、それじゃ一生独り身だぞ」と頭を抱えられた。
「……恋なんて、非効率なだけだ」
そう自分に言い聞かせて、掲示板に貼られたクラス名簿を確認する。
1年A組、出席番号12番。ハル。
その隣、13番――。
「あ! ハルくん、また隣じゃん! これもう運命じゃん!」
背後から、ポーンと明るい声が飛んできた。
振り返ると、そこには新品のセーラー服に身を包んだ杏がいた。
彼女は屈託のない笑顔で僕の隣に並び、名簿を指差す。
「……運命なんて、確率論の問題だよ」
「もう、すぐそうやって可愛くないこと言うー」
杏はぷくっと頬を膨らませて、僕の顔をじっと覗き込んだ。
「でもさ、ハルくんって、制服着るともっと……その、なんていうか。シュッとしてるね。塾の時はボサボサだったけど」
杏の顔が、近い。
彼女の瞳に、困惑したような僕の顔が映っている。
まただ。心臓が、僕の意志を無視して勝手にBPMを上げていく。
「……顔が、赤いよ? 熱でもある?」
杏が心配そうに、僕のおでこに手を伸ばそうとする。
「な、なんでもない! 教室、行くぞ」
僕は逃げるように歩き出した。
開成の入試問題より、彼女の一挙一動の方がよっぽど難解だ。
「恋」が何なのか、僕にはまだわからない。
でも、杏に触れられそうになった瞬間の、この焼け付くような感覚だけは、どの参考書にも載っていなかった。





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