野いちご源氏物語 五二 蜻蛉(かげろう)
宇治(うじ)山荘(さんそう)では浮舟(うきふね)(きみ)がいなくなったと(おお)(さわ)ぎしている。
「夜中に姫君(ひめぎみ)誘拐(ゆうかい)され、翌朝お屋敷じゅうが大騒ぎ」というのは物語によくあるけれど、まさにそんな感じの朝よ。

浮舟の君の母君(ははぎみ)から、また手紙が届いた。
昨日手紙を持たせた使者(ししゃ)がまだ帰ってこなくて不安になったみたい。
使者はお寺で用事をすませているうちに遅くなってしまったから、昨夜は山荘に泊まったのよね。
今朝早く都に戻るつもりだったけれど、この騒ぎで出発できずにいる。

「奥様がひどくご心配なさいますので、夜明け前に都を出てまいりました」
と、新しくやって来た使者は言った。
この状況を母君にどう報告したらよいか、乳母(めのと)をはじめ女房(にょうぼう)たちは頭を(かか)える。
誰も行き先に心当たりがない。
ただおろおろと騒いでいるのを、右近(うこん)侍従(じじゅう)は気まずく見ている。
<かなり悩んでいらっしゃったから、もしかしたら川に()()げなさったのかもしれない>
と、ふたりだけは思い当たるの。
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