野いちご源氏物語 五二 蜻蛉(かげろう)
匂宮(におうのみや)様も茫然(ぼうぜん)となさっている。
二、三日は正気(しょうき)を失ったご様子だったから、
「いったいどんな妖怪(ようかい)()りついてしまったのだ」
と世間は勘違いして騒ぐ。
少しずつ涙が()れて動揺(どうよう)も落ち着くと、今度は浮舟(うきふね)(きみ)のかわいらしかった姿を恋しく思い出される。

泣いていることは誰にも気づかれたくないと(かく)されるけれど、周りには気づく人もいた。
「何かおありになったのか。どうしてこんなふうに途方(とほう)()れていらっしゃるのだ。お命まで危なそうではないか」
(うわさ)する。

(かおる)(きみ)は納得なさる。
<やはり思ったとおりだ。宮様はすでに姫と関係を持たれていたのだ。お手紙のやりとりだけではない。あれほどかわいらしい人だったのだから、宮様がちらりとでもご覧になれば、ご自分のものになさって当然だ。
もし姫が亡くならなかったら、近いうちに何か問題が起きていただろう。『女は薫の君をふって、より高貴(こうき)な匂宮様を選んだらしい』などと(うわさ)されれば、とんでもない恥をかくところだった>
そうお思いになると、女君(おんなぎみ)を恋しがるお気持ちも少し収まる。
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