野いちご源氏物語 五二 蜻蛉(かげろう)
それからしばらくして、(おんな)(いち)(みや)様から(おんな)()(みや)様にお手紙と絵が届いた。
筆跡(ひっせき)は美しく、
<こうやってもっと早く拝見すればよかった>
(かおる)(きみ)(くや)しく思われる。
お返しに、すばらしい絵を集めてお贈りになった。
そのなかにさりげなく、大将(たいしょう)の役職についている男が、(みかど)のご長女に恋をする物語の絵をお入れになった。
まるでご自分と女一の宮様のようだとお思いになったのでしょうね。

<物語のなかの宮様のように、女一の宮様が私を愛してくださったら>
なんて夢のようなことを想像なさる。
「この男の気持ちが私にはよく分かります」と絵に描き加えたいけれど、
<世間に()れたら面倒なことになる。ほのめかすだけでも危険だ>
とおやめになった。

あれこれと物思いなさって、最後はやはり、亡き大君(おおいぎみ)が生きてさえいらっしゃればというところに行きつく。
<そうすれば他の女性に見向きなどしなかったのに。女二の宮様との結婚だって辞退(じたい)しただろうし、そもそもそれほど愛している人がいると帝がお聞きになれば、私を婿(むこ)にとはお考えにならなかったはずだ。大君はいつまでも私の心をかき乱される>
その後はまたいつものように、中君(なかのきみ)匂宮(におうのみや)様にお(ゆず)りしてしまったことを後悔(こうかい)なさる。
もうどうにもならないけれど、お(くや)しくてたまらないの。

それからやっと浮舟(うきふね)(きみ)を思い出される。
<自殺だなんてあまりに軽率(けいそつ)ではないか。しかし悩んでいるそぶりはあった。私が浮気に気づいたと知って、ひどく苦しんでいたと女房たちも言っていた。正式な妻にはふさわしくないが、気楽な恋人にしておくにはちょうどよい、かわいらしい人だったのに。
あぁ、もう匂宮様のことも姫のことも(うら)みはすまい。ただ私の運が悪かったのだ>
と、ぼんやりと(しず)みこまれる。
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