野いちご源氏物語 五二 蜻蛉(かげろう)
身分の軽い若者なので、どこへ行くにも無駄(むだ)に時間がかかることはない。
すぐに宇治(うじ)へ到着する。
雨は少し弱まったけれど、(けわ)しい山道で着物は汚れてしまった。
とても宮様の乳母子(めのとご)とは思えない格好(かっこう)よ。
山荘(さんそう)の周りにはやはり人がたくさん集まっていて、
「今夜のうちに火葬(かそう)なさるらしい」
(うわさ)している。

<お亡くなりになったというのは本当だったのか。それにしても当日に火葬とは早すぎる>
時方(ときかた)はぞっとしながら、まず右近(うこん)を呼んだ。
「今は正気(しょうき)を失っております。起き上がることさえできません。こうしてお越しいただくのも今夜が最後ですのに、申し訳ないことです」
と言って出てこない。
「そうおっしゃいましても、何も事情が分からないまま(みや)様のところへ戻るわけにはまいりません。侍従(じじゅう)殿(どの)は会ってくれませんか」
時方が頼みこむと、やっと侍従が出てきた。

「ふつうのお亡くなり方ではなかったのです。悲しいというよりも悪い夢を見ているような気分で、誰もかれもうろたえております。そのように宮様にお伝えくださいませ。
少し落ち着きましたらいろいろとお話しいたしましょう。宮様とのご関係が始まってから、姫様はずっとお悩みになっていました。そしてついにあの夜は宮様を追い返す形になってしまい、どれほど心苦しそうなご様子だったか。ひと月ほどしましたら、どうかまたお立ち寄りください」
そう言って侍従はひどく泣いた。
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