この恋、予定外。
「……今の話でいうと」

静かに聞いていたマーケ部の社員が、沈黙を破って口を開いた。

「“軽いのに崩れない”っていう矛盾が一番の価値になりますね」

すごい。言葉にするのが上手い。
私には思いつかなかった表現。“矛盾が価値になる”。胸がときめいた。

「どう表現するかが鍵ですよねー」

「“朝から夜まで軽やかにフィット”とか?」

「うーん、ちょっと弱いですね」

デザイン部が即座に返す。
今度は他部署同士で意見交換が始まった。


「もっと感覚的な方がいいかと思います。“素肌みたいに軽いのに、ちゃんと残る”とか…」

「ありがちでもいいけど、どこか違うインパクトはほしいです」

「“朝の肌は夜まで守る”とか?」

言葉が形になっていく。


「─────で、いくらで売る?」

課長の一言で、会議室の空気が一気に地面に引き戻された。

マーケ部の社員が少し考え込むように眉を寄せて手元の資料をめくった。

「競合を踏まえると、二千八百円から三千二百円帯が現実的です。ただ、カバー力訴求のファンデではないので、価格だけで比較されると少し弱いかもしれません」

「弱い、っていうのは?」

朝倉課長が短く返す。

「分かりやすい“隠す力”では勝負しにくい、という意味です」

彼女は画面に映った競合資料を指で示した。

「今って、同価格帯でも“崩れにくい”、“毛穴カバー”、“ハイカバー”を前面に出してる商品が多いんです。そこに正面からぶつけると、比較のされ方が不利になります」

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