この恋、予定外。
課長は平然とした様子で続ける。

「高橋くん。Last Fitの試作やってるけど、実際の売り場見たことないだろ?」

高橋さんが嫌そうな顔で眉を寄せた。

「売り場?俺、もしかしてそのためにここに呼ばれたんですか?」

「その通り!」

課長は得意げに大きな口を開けて笑った。ご名答!と言わんばかりに。

「営業がどこで何を見てるのか、たまには見ておけ」

すかさず高橋さんは「嫌です」と反論した。
椅子にもたれたまま、ため息をついている。

「俺、外回りは一年目に一回やりましたよ」

「じゃあ思い出してこい。忘れただろ?数年前のことなんて」

「課長、俺が行ったって」

まだ食い下がろうとする高橋さんを遮り、桐山課長は笑顔を浮かべた。

「いいから行け」

即答だった。
あまりにも潔のいい、遮り方。

「森川」

「はい!」

「高橋くん連れてって」

一瞬、私まで「嫌です」と言いそうになるのを堪える。
急いで営業スマイルを作った。

「了解です!」

私が元気よく返事をすると、高橋さんが横目でこちらを見る。

「簡単に返事すんなよ」

「心強いと思うことにしました」

「どこが?」

「技術の人が一緒だと説明がラクなんです」

高橋さんは心底だるそうに小さく舌打ちした。
久しぶりに聞いた、社会人でこんなに分かりやすく舌打ちするの。

「めんどくせー…」

心の声、聞こえてますよー。

私はもうバッグに必要なものを詰め込み、ノートパソコンやタブレットもしっかり入っていることを確認して立ち上がっていた。

一方、彼はまだ座っている。
その腕を両手でつかんだ。

「ほら!行きますよ!」

「引っ張んな」

ブーブー文句を垂れながら、彼も重い腰をやっと上げてくれた。


後ろから課長の押さえたような笑い声が聞こえたけれど、聞こえないふりをしておいた。
─────ただ、なぜか少しだけ、面白くなりそうだとは思った。




< 28 / 180 >

この作品をシェア

pagetop