この恋、予定外。
エレベーターを待つ間、私は少しだけ迷ってから切り出した。

「あのー、高橋さん」

「ん?」

「さっきの人」

「西野?」

「わりと、普通に話すもんなんですね」

言った瞬間。
あ、やばい。と我に返る。

高橋さんがこちらを見下ろしていた。

「誰に聞いた?」

圧はないが、いつもの低い声に混ざる“なにか”。

私は慌てて目を逸らした。

「……」

答えてはいけないような気がして、無言になる。

少しの沈黙。
でも高橋さんはそれ以上追及しなかった。

「あー…杉本か」

ぼそっと言う。心当たりがあったらしい。

瑞希さん、ごめんなさい。
心の声はさておき、私は何も言わない。


高橋さんは小さく息を吐いた。

「まあいいや」

エレベーターが到着し、扉が開く。
二人で乗り込む。

扉が閉まる直前、高橋さんが言った。

「最初から、なんもなかったよ」

私が顔を上げると、彼は前を向いたまま続ける。

「だから普通でいられる」

彼の表情は、いつもと同じだった。
温度が分からない、いつもの感じ。


上昇するエレベーターの中で、私はその言葉を反芻する。

“最初から、なんもなかったよ。
だから普通でいられる。”


─────本当に?

だって瑞希さんは言っていた。
“ずっと片思いしてた”って。

普通でいられるって言ったけど。
この人、本当に大丈夫なんだろうか。


ふと、今日一日の高橋さんを思い出す。

無表情で、淡々としていて、感情がほとんど見えない。

……もしかして。

私はぼんやり思う。


この人がロボットみたいなのって。
───そのせいだったりするんだろうか。



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