この恋、予定外。
思ったよりも普通に言われたものだから、こちらも拍子抜けしてしまった。

「そうならそうと、もうちょっと明るく、やさしく、分かりやすく言ってください」

「え、それはめんどくさい。要求が多いな」

いつもの調子。
あー言えばこー言うスタイル。慣れっこになってしまった私も私だけど。


「私は、やりやすかったです」

言ってから、自分で一瞬だけ止まる。

するりと、言葉が出てしまった。


─────今、なに言った?
なんとなく恥ずかしくなる。

「は?」

あっちも想定外だったのか、驚いたような低い声が落ちる。

「私はね、高橋さんとは違うんですよ」

とっさに言い返す。

「ちゃんと思ったことは言葉にするんです。そういうタイプなんで」

そう、それがいつもの私だ、たぶん。
高橋さんは面白そうに一瞬だけこちらを見て、ふと口元に笑みを浮かべた。

「…そうだな」

と、それだけ言って歩くペースを上げた。


「ちょっと、待ってくださいよ」

私は慌ててその背中を追う。
気を抜くと数歩で距離が開いてしまう。

「高橋さん」

呼ぶと、顔が半分だけ振り返る。
なに?と言いたげな目をして。

「さっさと行くの、やめてください」

「え?」

「一緒に歩くなら、ちゃんと相手に合わせるもんですよ」

一瞬だけ、間。
高橋さんは何かを考えるように黙ってから、

「…そういうもん?」

と、首をかしげる。

そして、彼の歩くペースがすぐにほんの少しだけ落ちる。
私はその隣に並んだ。

さっきまでより、少しだけ自然に。


なにか言葉を探そうとしたけれど、いいのが思い浮かばない。

噛み合ったとか、歯車が合ったとか。
そういうのとも、少し違う。


結局、言葉にできない“なにか”を飲み込む。

横を見ると、高橋さんがいる。
もう先を歩いたりはしない。

ただ彼はいつも通り、何も変わらない顔で前を見ている。


さっきの店のことも。
今の会話のことも。
たぶん、もう終わっているみたいに。


仕事はやりやすいのに、仕事が外れるとやりづらい。
その理由だけが、どうしても分からなかった。


「…おかしいな」

と、彼に聞こえないくらいの声で小さくこぼす。


歩幅は、もう揃っているのに。
私はそのことに、気づかないふりをしたまま歩いた。


< 75 / 180 >

この作品をシェア

pagetop