この恋、予定外。
「威圧的で。目つきが悪くて。怖い男…」


後ろから、小さいけど低くて頭に響く声が聞こえてきた。

私は全身が違う意味で震えるのが分かった。
書類を持つ手が一気に冷える。

気づいた時には桐山課長はもう廊下の先にいた。

逃げたな!

「課長!!」

呼んだ時点で、課長は角を曲がって姿がなかった。


「営業部の森川サン」


やっと、後ろを振り返った。

高橋さんが壁に背をつけて、ポケットに手を突っ込んでいる。
片手にはノートパソコンと資料。

もうすでに、見下ろされるぐらいには近かった。


「ふーん。俺のこと、そう見えてるんだぁ」

笑いもしないから、なお怖い。

「しっかり覚えとくよ」

返す言葉が出ない。
取り繕うには、あまりにも遅すぎる。

高橋さんはそれ以上はなにも言わず、課長とは反対の廊下を歩いていってしまった。


─────最悪だ。

人生終了のお知らせなのでは?
私の、朝比奈化粧品での社会人人生。
前途多難とかじゃなく、終了…。



私はヨタヨタとそのまま廊下の奥へ向かった。

化粧室だ。


誰もいない鏡の前で、私はため息をつく。

落ち着け、落ち着くんだ。
たった三、四ヶ月だ。それだけ彼に我慢すればいい。
いいものを作るためには、時には我慢も必要だ。


鏡に映る自分を見て、頬を軽く押さえた。

…崩れてる。
朝、ちゃんと作ったはずなのに。

口元。頬。リップも、色が消えかかっている。

…あぁ、もう。
どうしてこうなんだろう。


私は鏡の中の自分に言った。

「ほらね。営業って、こんな顔になるんだよ…」





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