君の手が動く限り、俺は隣にいたいから
 木々が完全に葉を落とした窓の外、朝の冷え込みは吐く息を白く染めるほどになっていた。
 季節は流れ、本格的な冬が到来している。入学してから半年以上が経ち、四月の頃とは学校を取り巻く何もかもが変わっていた。
 クラスの空気もそうだ。最初は他人同士だった三十人も、今ではそれぞれの居場所を見つけている。
 昼休みになれば自然と賑やかなグループができるし、授業中に教師から当てられても、以前ほど緊張した様子は見られない。
 そして、変わったのは周囲だけではなかった。

「藤代ー」

 休み時間、教室の中央から気安く声が飛んでくる。だが、呼ばれた本人は一向に返事をする気配がない。
 窓際後方の自分の席。そこに座る凌は、机の上にスケッチブックを広げたまま、黙々と鉛筆を走らせていた。周囲の喧騒など、最初から耳に入っていないかのように。

「おーい、藤代ー」
「……あ?」

 三度目でようやく、凌は面倒くさそうに顔を上げた。
 声を掛けていたクラスメイトの三崎が、呆れたように笑う。

「また描いてんのかよ」
「休み時間だからな」
「普通はそこ、休む時間なんだよ」
「知らねぇ」

 即答だった。三崎は降参とばかりに肩を竦める。
 入学当初、毎日のように遅刻を繰り返し、周囲を睨みつけていた問題児の姿はもうそこにはない。
 教師へ反抗的な態度を取っていた少年もいない。
 代わりにクラスに定着したのは、休み時間になるたびに猛然と絵を描き始める「変人」の枠だった。

「最近マジでずっと描いてるよな」
「そうか?」
「そうだよ」

 隣の席の女子まで会話へ加わってくる。

「この前なんて、昼休み丸々使って描いてたじゃん」
「飯は食った」
「そういう話じゃなくてさ」

 教室の片隅に小さな笑い声が起きる。凌はそれを気にした様子もなく、再び手元のキャンバスへと視線を落とし、鉛筆を動かした。
 カリカリ、と乾いた音が響き、白い紙の上に線が増えていく。
< 105 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop