君の手が動く限り、俺は隣にいたいから
約束の日は、何のドラマチックな前触れもなく、驚くほどあっさりとやってきた。
凍てつくような冬の朝。空気に触れた途端に吐く息は真っ白く染まり、容赦のない寒風が肌を刺すように冷たい。
凌はマフラーを巻くことすら忘れ、無造作に両手を制服のポケットへ突っ込んだまま、駅から淡々と続くアスファルトの道を歩いていた。
頭の中では、昨夜遅くに送られてきた、あのそっけないメッセージの画面を何度も何度も思い返している。
『明日、ここに来て』
文末に添付されていたのは、見慣れない地図アプリの位置情報ピン。
そして、午前十時という時間だけ。
何故そこに行くのか、何をするのか、行き先の説明や理由は一切綴られていなかった。
「……いや、マジで言ってるのか?」
やがて目的地の座標に辿着いた凌は、目の前にそびえ立つ巨大な建築物を見上げ、思わず呆然とした声を出した。
そこに待ち受けていたのは、高校生が休日に連れ立って出かけるような洒落たカフェでもなければ、テーマパークでも映画館でもない。
無機質で、巨大な――総合病院だった。
くすんだ白い外壁。
複雑に何棟も連なる巨大な病棟。
正面玄関を重い足取りで行き交う人々。
ロータリーの奥には救急車の姿まで見える。
どう好意的に解釈したって、休日に対等な友人同士が待ち合わせをするようなロケーションではなかった。
「……一体、俺に何しに来させたんだよ、あの馬鹿先輩」
こめかみを指先で押し、眉間に深い皺を寄せる。
このまま引き返して帰ろうかと、一瞬だけ本気で頭を過った。けれど、あのプライドの塊のような碧南が、わざわざこんな場所をピンポイントで指定してきたのだ。絶対に、引き返せないだけの何らかの理由があるはずだった。
凌は観念したように大きな溜息を吐き出すと、ゆっくりと自動ドアへ向かって足を踏み出した。
ウィーン、と静かな音を立てて分厚いガラス扉が開く。
次の瞬間、過剰なほどに暖房の効いた生温かい空気が、凌の全身を包み込んだ。
機能的に配置された受付カウンター。
広大な待合スペース。
忙しなく行き交う看護師や、パジャマ姿の患者質。
独特のツンとした消毒液の匂い。
何処か静かで、それでいて奇妙に落ち着かない、特有の重苦しい空気がそこには漂っていた。
凌はポケットから手を抜き、居心地の悪さを隠せないまま周囲を見回した。だが、何処を探してもそれらしい姿は見当たらない。
「何処にいるんだよ……」
痺れを切らし、スマホを取り出して連絡を入れようとした、まさにその時だった。
凍てつくような冬の朝。空気に触れた途端に吐く息は真っ白く染まり、容赦のない寒風が肌を刺すように冷たい。
凌はマフラーを巻くことすら忘れ、無造作に両手を制服のポケットへ突っ込んだまま、駅から淡々と続くアスファルトの道を歩いていた。
頭の中では、昨夜遅くに送られてきた、あのそっけないメッセージの画面を何度も何度も思い返している。
『明日、ここに来て』
文末に添付されていたのは、見慣れない地図アプリの位置情報ピン。
そして、午前十時という時間だけ。
何故そこに行くのか、何をするのか、行き先の説明や理由は一切綴られていなかった。
「……いや、マジで言ってるのか?」
やがて目的地の座標に辿着いた凌は、目の前にそびえ立つ巨大な建築物を見上げ、思わず呆然とした声を出した。
そこに待ち受けていたのは、高校生が休日に連れ立って出かけるような洒落たカフェでもなければ、テーマパークでも映画館でもない。
無機質で、巨大な――総合病院だった。
くすんだ白い外壁。
複雑に何棟も連なる巨大な病棟。
正面玄関を重い足取りで行き交う人々。
ロータリーの奥には救急車の姿まで見える。
どう好意的に解釈したって、休日に対等な友人同士が待ち合わせをするようなロケーションではなかった。
「……一体、俺に何しに来させたんだよ、あの馬鹿先輩」
こめかみを指先で押し、眉間に深い皺を寄せる。
このまま引き返して帰ろうかと、一瞬だけ本気で頭を過った。けれど、あのプライドの塊のような碧南が、わざわざこんな場所をピンポイントで指定してきたのだ。絶対に、引き返せないだけの何らかの理由があるはずだった。
凌は観念したように大きな溜息を吐き出すと、ゆっくりと自動ドアへ向かって足を踏み出した。
ウィーン、と静かな音を立てて分厚いガラス扉が開く。
次の瞬間、過剰なほどに暖房の効いた生温かい空気が、凌の全身を包み込んだ。
機能的に配置された受付カウンター。
広大な待合スペース。
忙しなく行き交う看護師や、パジャマ姿の患者質。
独特のツンとした消毒液の匂い。
何処か静かで、それでいて奇妙に落ち着かない、特有の重苦しい空気がそこには漂っていた。
凌はポケットから手を抜き、居心地の悪さを隠せないまま周囲を見回した。だが、何処を探してもそれらしい姿は見当たらない。
「何処にいるんだよ……」
痺れを切らし、スマホを取り出して連絡を入れようとした、まさにその時だった。