君の手が動く限り、俺は隣にいたいから

ぐちゃぐちゃの入部届




 放課後の部室の匂いも、夕日の赤さも、昼間の明るさを完全に失った、誰もいない夜の屋上。
 月明かりさえ届かない重苦しい夜空の下、冷たいコンクリートの床に、ぽつりと一つの人影が疼くまっている。
 彼女は狂ったように右手を動かしていた。携帯電灯の細い光だけを頼りに、狂気を孕んだ目でスケッチブックに鉛筆を叩きつけている。
 ガリガリッ! ギィ、と、静寂を引き裂くような不快な音が屋上に響き渡る。それは絵を描くというより、白い紙を自らの手で惨たらしく切り刻んでいるかのようだった。

「違う……っ、違う……!」

 血を吐き出すような、掠れた声が彼女の唇から漏れる。

「こんな絵を、描きたいわけじゃない……。こんな、何処にでもあるような、死んだ色の空じゃない……!」

 彼女の指先が、激しい拒絶にガタガタと震えていた。
 どれだけ必死に鉛筆を走らせても、どれだけ心の中の熱量をぶつけても、白い紙の上に現れるのは彼女の求める理想には程遠い、ただの冷たい線の塊でしかなかった。

「私には、時間がないのに……ッ!」

 ぎり、と痛々しい音を立てて奥歯を噛み締める。その瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ち、まだ乾かない鉛筆の粉を黒く滲ませていく。
 その横顔には、焦燥という名の悪魔に心臓を抉られているかのような、見ていて胸が締め付けられるほどの絶望が張り付いていた。
 何が彼女をそこまで追い詰めているのか、何の手にも届かない暗闇の中で、彼女はたった一人で溺れかけている。

 ビリッ――ッ!!!

 突如、夜の静寂を切り裂いて、鋭く激しい音が響いた。
 彼女は、自分が今しがた命を削るようにして描いていたページを、容赦なく掴み、力任せに引き破った。
 それだけでは足りないと言わんばかりに、破り取った紙を、何度も、何度も、狂ったように両手でビリビリに引き裂いていく。
 破片が容赦なくコンクリートの床に散らばり、彼女の指先は紙の端で切れたのか、微かに赤く染まっていた。

「あ、あぁ……っ……」

 全てを壊し終えた後、彼女は力なく両膝の間に頭を埋めた。
 引き裂かれた無数の紙切れが、冷たい夜風に吹かれて、まるで意思を持たない白い蛾のように暗闇の向こうへと舞い散っていく。
 胸を掻きむしるような嗚咽だけが、いつまでも、いつまでも、冷え切った屋上のフェンスに虚しく木霊していた。

















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