君の手が動く限り、俺は隣にいたいから
美術部の部室前。凌が扉に手を掛けようとしたその時、中から聞き覚えのある話し声が漏れ聞こえてきた。
凌は動かそうとした手を止め、そのまま静かに聞き耳を立てる。
「今回もエントリーは任意にする。出したい人は作品ができ次第、私に提出して。私から顧問に出しておくから」
それは紫の、いつになく部長らしい、凛とした声だった。
「もし入賞した場合、展示会場は何処になるんですか? 場所によってはエントリーが難しくなるのですが」
別の部員の、少し不安げな質問が続く。
その質問に冷静に答える紫の声が追いかけて聞こえてくる。
「このコンテストはね、抽選で展示会場になる学校が決まる仕組みなのよ。今回は運よく、うちの学校の空き教室で行うらしいから、その辺の移動や手間の心配は安心できると思うわ」
しばらくの間、凌は扉の向こうのやり取りを盗み聞いていた。
やがて室内からの話し声が途切れたのを見計らい、彼は意を決してガラガラと引き戸を開け、入室した。
「こんにちは」
「あ、凌君! ちょうどいい所に!」
入ってきた凌の姿を認めるや否や、紫はぱっと顔を輝かせて彼を呼び寄せた。
「もう知っているかと思うけど、そろそろ高校生向けの大きなコンテストがあるんだけどね。今年もうちの部から何作品かエントリーしてみようと思っているのよ。まぁ任意だから、出したい人だけでいいんだけど……凌君はどうする?」
「そう、っすね……」
凌は昨日のポスターを思い出し、少し視線を落としながら、言葉を濁した。
挑戦したい気持ちはある。けれど、まだ入部して間もない自分が、いきなりコンテストなんて大舞台に出ていいものだろうかという迷いがあった。
「ふふ、まだ入部して日も浅いし、無理強いはしないよ。でも、自分の現在地を知るいい経験にはなると思う。……あとね?」
部室の入り口前で、視線を彷徨わせながら考え込む凌。
そんな彼のすぐ傍へと、紫が足音もなくすっと忍び寄った。
彼女は悪戯っぽく身を屈めると、凌の顔にぐっと自分の顔を近づけ、周囲の部員に聞こえないような密やかな声で耳打ちをした。
「このコンテスト……去年、あの子も参加したのよ。そして、銀賞を取ったの」
その言葉が鼓膜を震わせた瞬間、凌の身体に電撃が走った。
「――出ます!」
迷いは一瞬で消し飛び、凌は弾かれたように顔を上げて宣言した。
大きな声が部室に響き、周りの部員達が少し驚いたように彼を振り返る。
そんな凌の元気なリアクションを見て、紫は「思った通り」と言わんばかりに、口元を片手で隠しながらクスクスと楽しそうに笑った。
凌は少し決まずそうに視線を外し、恥ずかしさに顔を赤らめながら俯いた。
けれど、その瞳には、碧南と同じ舞台に立てるという強い喜びと、未来への確かな期待が満ち溢れていた。
凌は動かそうとした手を止め、そのまま静かに聞き耳を立てる。
「今回もエントリーは任意にする。出したい人は作品ができ次第、私に提出して。私から顧問に出しておくから」
それは紫の、いつになく部長らしい、凛とした声だった。
「もし入賞した場合、展示会場は何処になるんですか? 場所によってはエントリーが難しくなるのですが」
別の部員の、少し不安げな質問が続く。
その質問に冷静に答える紫の声が追いかけて聞こえてくる。
「このコンテストはね、抽選で展示会場になる学校が決まる仕組みなのよ。今回は運よく、うちの学校の空き教室で行うらしいから、その辺の移動や手間の心配は安心できると思うわ」
しばらくの間、凌は扉の向こうのやり取りを盗み聞いていた。
やがて室内からの話し声が途切れたのを見計らい、彼は意を決してガラガラと引き戸を開け、入室した。
「こんにちは」
「あ、凌君! ちょうどいい所に!」
入ってきた凌の姿を認めるや否や、紫はぱっと顔を輝かせて彼を呼び寄せた。
「もう知っているかと思うけど、そろそろ高校生向けの大きなコンテストがあるんだけどね。今年もうちの部から何作品かエントリーしてみようと思っているのよ。まぁ任意だから、出したい人だけでいいんだけど……凌君はどうする?」
「そう、っすね……」
凌は昨日のポスターを思い出し、少し視線を落としながら、言葉を濁した。
挑戦したい気持ちはある。けれど、まだ入部して間もない自分が、いきなりコンテストなんて大舞台に出ていいものだろうかという迷いがあった。
「ふふ、まだ入部して日も浅いし、無理強いはしないよ。でも、自分の現在地を知るいい経験にはなると思う。……あとね?」
部室の入り口前で、視線を彷徨わせながら考え込む凌。
そんな彼のすぐ傍へと、紫が足音もなくすっと忍び寄った。
彼女は悪戯っぽく身を屈めると、凌の顔にぐっと自分の顔を近づけ、周囲の部員に聞こえないような密やかな声で耳打ちをした。
「このコンテスト……去年、あの子も参加したのよ。そして、銀賞を取ったの」
その言葉が鼓膜を震わせた瞬間、凌の身体に電撃が走った。
「――出ます!」
迷いは一瞬で消し飛び、凌は弾かれたように顔を上げて宣言した。
大きな声が部室に響き、周りの部員達が少し驚いたように彼を振り返る。
そんな凌の元気なリアクションを見て、紫は「思った通り」と言わんばかりに、口元を片手で隠しながらクスクスと楽しそうに笑った。
凌は少し決まずそうに視線を外し、恥ずかしさに顔を赤らめながら俯いた。
けれど、その瞳には、碧南と同じ舞台に立てるという強い喜びと、未来への確かな期待が満ち溢れていた。