赫い滴と湿った吐息
第一章:新宿の熱帯夜、湿った吐息

第一話:紫煙とアスファルトの匂い 1

​「……おじさん、遊んでかない?」

歌舞伎町の外れ、大久保公園の湿った夜気に、鈴を転がすような声が混じる。

鼻腔を突くのは、排気ガスの煤けた臭いと、彼女の髪から漂う甘いバニラの香。

視界に映る少女は、街灯の青白い光を浴び、透き通るような白い肌を晒している。

​「十九歳……大学生だよ、本当だよ?」

少女が歩み寄ると、サンダルのパタパタという軽い音が、アスファルトに反響した。

指先が男のジャケットに触れると、冷房で冷え切ったナイロンの硬い感触が伝わる。

舌先に残る缶コーヒーの苦みが、彼女の幼い笑顔と混ざり合い、奇妙な高揚を生んだ。

​「……いくらだ」

男の低い声が、重く沈殿した空気の層を割り、少女の鼓動を僅かに揺らす。

耳朶を打つのは、遠くで鳴り続ける救急車のサイレンと、若者の無機質な笑い声。

視覚を支配するのは、短すぎるスカートから伸びた、瑞々しく光る太腿の曲線だ。

​「……三万。ホテル代は別、ね」

彼女が唇を湿らせると、微かな粘膜の重い音が、男の耳元で淫らに響いた。

触れ合う二人の距離から、熱い体温が混ざり合い、夜の闇をじりじりと焼き焦がす。

掌に伝わる彼女の細い肩の震えは、夜風の冷たさか、それとも隠しきれぬ期待か。

​「いいだろう、行こうか」

男が頷くと、少女の瞳に宿る不安が、一瞬だけ、歓喜の火花へと書き換えられる。

窓の明かりが疎らなラブホテルの看板が、二人の影を、長く、歪に引き延ばした。

溢れ出した夜の熱気が、男の襟元を濡らし、逃れられない快楽の予感を運んでくる。
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