赫い滴と湿った吐息

第二話:無機質な部屋、契約の再確認 3

​「あ、あぁ……っ! ん、ぅ……っ」

少女の喉を震わせる絶頂の余韻が、狭い室内の空気を、重く湿った沈黙で塗り潰す。

鼻腔を支配するのは、弾け飛んだ欲望の生臭さと、冷房が吐き出す乾いた機械の匂い。

視界に映る彼女の瞳は、焦点の合わないまま虚空を見つめ、涙の膜で白く濁っていた。

​「……これで、今週分は『完了』だ」

男の低い声が、疲弊した彼女の鼓膜を、無機質な事務連絡のように冷たく叩く。

耳朶を打つのは、絡み合った肢体が離れる際に鳴る、ぴちゃりという不潔で甘い水音。

舌先に残る自身の熱い唾液の味が、男の理性を、現世へと引き戻す楔となって刺さった。

​「……完了、か。おじさん、本当に、事務的だね」

少女がシーツをたぐり寄せ、剥き出しの身体を隠すと、カサリと乾いた布の音が響く。

触れ合う二人の間の温度は、急速に奪われ、冷えた汗が肌の上で鳥肌を刻んでいった。

視覚を奪うほどの眩いスマートフォンの通知が、枕元で、偽りの日常を執拗に告げる。

​「事務的でいい。情など、この契約には不純物でしかない」

男の指先が、彼女の乱れた前髪を、もはや愛情ではなく確認作業のように横へ払う。

掌に伝わる彼女の額の熱は、未だに微かな痙攣を伴い、支配の余韻を男に伝えていた。

遠くで、深夜の救急車のサイレンが、眠らない街の悲鳴となって壁を微かに震わせる。

​「……また、来週ね。おじさんの、お人形さんでいてあげる」

彼女の吐息が、諦めと甘えの混じった不気味な響きを帯び、男の胸元に白く霧散した。

溢れ出した虚無の深淵が、契約という名の絆を、より強固に、より歪に固めていく。

暗闇の中、二人の影はもはや分かちがたく、一つの深い闇の塊へと溶け落ちていった。
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