赫い滴と湿った吐息

第二話:雨の後の沈黙、縋り付く指先 1

​「……おじさん、怖かった。あいつ、私のこと、あんなに見てたなんて……っ」

ホテルの重いドアが閉まった瞬間、少女の強張っていた糸が切れ、男の胸に崩れ落ちる。

鼻腔を支配するのは、濡れた髪から立ち上る雨の冷たい匂いと、彼女の恐怖が混じった生温かい呼気。

視界に映る彼女の肩は、激しい寒気と動揺に襲われ、薄いブラウス越しに小刻みな痙攣を繰り返していた。

​「……終わったことだ。あんな小僧に、お前を奪う力など、最初からない」

男の低い声が、静まり返った玄関に響き、彼女の震えを力ずくで押さえつけるように重く沈殿する。

耳朶を打つのは、彼女が男の濡れたジャケットを掴み、離すまいとする爪が立てる衣擦れの音。

舌先に残る自身の冷徹な唾液の味が、男の口腔を、守護という名の新たな支配欲で満たしていった。

​「私……もう、おじさんしかいない。あいつに言われたら、私の居場所、全部なくなっちゃう……っ!」

少女の瞳から零れ落ちた熱い雫が、男のワイシャツを透かし、皮膚に直接、絶望の熱を伝えてくる。
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