君の描き方

EP.6

放課後になり、私はいつも通り帰る準備をした。
鞄を肩にかけて教室を出る。

廊下を歩き、靴箱の前に来たとき。

なんでいるの。

西野が壁にもたれて立っている。

私は何も言わずに自分の靴を取り出した。
履き替えて、そのまま西野の前を通り過ぎる。

「おい」

後ろから声が聞こえた。

でも名前を呼ばれたわけじゃない。
私は振り返らずに歩き続けた。

「聖」

一瞬、足が止まりそうになる。

でもフルネームじゃない。

気のせいだと思って、そのまま歩く。

「俺の彼女の佐藤聖」

「もう何」

さすがに振り返った。

西野は少しだけ笑っている。

「ちょっとついてきて」

「え」

言い終わる前に、腕を掴まれる。

「ちょっ、西野」

そのまま引っ張られて歩き出す。

まただ。

結局今日も、西野にどこかへ連れて行かれる。

校門を出て、少し人通りの少ない道に入る。

「西野、行き先教えてくれないと困る」

「二人になれる場所」

「どこだよ、それ」

呆れてそう言うと、西野は急に足を止めた。

私は一歩遅れて止まる。

振り返った西野の表情は、さっきまでと少し違っていた。

「美術のときさ」

西野が静かに言う。

「俺から話しかけろって言ったけど」

少し間が空く。

それから、ぽつりと続けた。

「やっぱ嫉妬した」

西野は視線を逸らして、小さく笑った。

「なんかいい感じの雰囲気だった」

「恋バナしてたからじゃない」

「それでも」

西野はゆっくり私を見る。

「楽しそうだったことに変わりない」

その言葉に、少し言葉が詰まる。

「やっぱさ」

「なに」

「俺、余裕ない」

珍しく弱い声だった。

「仮って分かってるのに」

そして私を見る。

「聖が誰かと楽しそうにしてると、普通に嫌」

胸が少しだけざわつく。

私は目を逸らしながら言った。

「……仮なのに?」

西野は少しだけ笑う。

「仮でも彼氏だから」

その言い方が、やけに真面目だった。

少し沈黙が流れる。

「それと」

西野は少しだけ言葉を切った。

「聖が湊のこと好きだから、余計焦る」

思わず顔を上げる。

「好きじゃないって言ったじゃん」

すぐに言い返すと、西野は小さく首を振った。

「嘘」

「嘘じゃない」

「じゃあさ」

西野は一歩近づいてくる。

「なんであんな顔してたの」

「どんな顔」

「好きですオーラ全開の顔」

その言い方が、妙に真剣だった。

私は一瞬言葉に詰まる。

西野は続けた。

「一週間ずっと気にしてたくせに」

図星すぎて何も言えない。

「やっと話せて嬉しそうだった」

西野は少しだけ笑った。

でもその笑い方は、どこか寂しそうだ。

「そりゃ焦るでしょ」

そう言って、視線を落とす。

「俺の彼女なのに」

胸が小さく跳ねる。


西野は私の肩に、うなだれるようにして頭を乗せた。

「仮ってことくらい分かってるけど」

小さくそう呟く。

しばらくして、ゆっくり顔を上げた。

そしてもう一度、私を見る。

「でもさ」

少しだけ声が低くなる。

「好きな人が他の男のこと好きだったら」

一瞬、言葉が途切れる。

西野は目を伏せて、苦く笑った。

「普通、焦るよ」

その言葉に、私は何も返せなかった。

ただ、西野を見つめることしかできない。

西野は視線を外して、小さく息を吐く。

「……ごめん」

「なんで謝るの」

思わず聞き返す。

「重いこと言った」

西野は少しだけ困ったように笑った。

「仮なのに」

胸の奥が、少しざわつく。

私は視線を逸らしながら言った。

「あー羽村好きだー」

思わず空を見上げながら、そう叫んだ。

「えっ急に何」

隣で西野が目を丸くする。

自分でも何でこんなこと言ったのか分からない。
でも、胸の中に溜まっていたものが一気にこぼれた気がした。

西野はしばらく、じっと私の顔を見ていた。

それから、ふっと笑う。

「やっと言ったね」

少しだけ悔しそうに眉を下げる。

「あー悔しい」

そう言って悔しさは感じられないほど優しい顔で微笑む。

「まだチャンスある?」

その聞き方が、やけに素直だった。

私は少し考えるふりをする。

それから小さく言った。

「……仮の間だけね」

西野は一瞬きょとんとして、

それから、嬉しそうに笑った。

「十分」

そしてまた私の肩に軽く頭を乗せる。

「一ヶ月あるし」

「重い」

「幸せ」

西野のことは好きじゃないけど私もなぜか幸せだ。
< 6 / 8 >

この作品をシェア

pagetop