刻(とき)の断罪 ―真紅の絆―
六月の空は、あまりにも残酷なほどに澄み渡っていた。
ステンドグラスを透過した七色の光が、大聖堂のバージンロードに美しい幾何学模様を描き出している。
パイプオルガンの重厚な音色が、厳かに、そして祝福に満ちて響き渡っていた。
「…淳也さん」
ウェディングドレスを纏った美晴が、隣に立つ男を愛おしそうに見上げた。
城里淳也。
若き実業家として、亡き父の会社を奇跡の再建へと導いた男。
その歩みは決して平坦ではなかったが、今日という日は、彼の人生における最高の到達点になるはずだった。
「ああ。…綺麗だよ、美晴」
淳也の微笑みは、初夏の陽光のように温かい。
その瞳には、これから始まる新しい人生への希望が溢れていた。
だが、その背後に立つ二人の親友――美浜大慈と田之上京太郎の視線が、凍てつくような冷徹さを帯びていることに、彼はまだ気づいていなかった。
「…淳也、その前にこれだ。中東プロジェクトの最終契約書。今のうちにサインを済ませておけ。最高の結婚祝いだろ?」
京太郎が差し出した、解読不能なアラビア語が並ぶ一枚の書類。
淳也は親友を信じ、疑うことなく万年筆を走らせた。
そのペン先が、自らの未来を切り裂く刃になるとも知らずに。
誓いの言葉を交わそうとした、その瞬間だった。
重厚な大扉が、地響きを立てて開け放たれた。
静寂を切り裂いたのは、祝福の拍手ではなく、無機質な軍靴の響きと突きつけられた一枚の紙。
「城里淳也。テロ組織への資金援助容疑、ならびに背任の疑いで逮捕状が出ている」
「な…何を言っているんだ!?」
どよめく参列者。悲鳴を上げる美晴。淳也の腕に、冷たい手錠がかけられる。
真っ白なタキシードの袖口で、銀色の金属が鈍く光った。引き立てられる淳也の視界の端で、親友だったはずの二人が、口元に薄い冷笑を浮かべたのを彼は確かに見た。
それが、すべての始まりだった。
一人の男の命が、誇りが、そして愛が、音を立てて砕け散った日。
それから、十五年後。
都会の夜景を見下ろす漆黒の執務室に、一人の「男」が立っていた。
月永グループ副社長、月永翔。
完璧に仕立てられた黒いスーツに身を包み、冷徹な美貌を湛えたその男は、チェス盤の上の駒を一つ、音もなく倒した。
「…さあ、始めましょうか」
低く、けれど鋭い声が闇に溶ける。
その胸元で、古い十字架のネックレスが、かつての絶望を記憶するように静かに輝いていた。
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