刻(とき)の断罪 ―真紅の絆―

六月の陽光は、大聖堂のステンドグラスを透過して、床に極彩色の模様を落としていた。初夏の風が若葉の匂いを運び、世界は祝福に満ちているように見えた。

城里淳也は、控え室の大きな鏡の前で、純白のタキシードの襟を整えていた。父の代に一度は傾きかけた「城里開発」を、不眠不休の努力で立て直し、ようやく手にした地位と名声。そして今日、人生で最も愛する女性、美晴を妻に迎える。

「淳也、準備はいいか?」

扉が開き、二人の男が入ってきた。学生時代からの親友、美浜大慈と田之上京太郎だ。大慈はどこか落ち着かない様子で派手なネクタイを弄り、京太郎は彫像のように端正な顔で、静かに淳也を見つめていた。

「ああ。二人とも、今日は受付から何までありがとうな。お前たちがいてくれて心強いよ」

淳也が心からの笑顔を向けると、京太郎が懐から一通の封筒を取り出した。
「これ、例の中東プロジェクトの最終契約書だ。アラビア語の原本も入っている。あちらの王族が、どうしても今日中にサインが欲しいと言ってきてね。縁起物だ、式が始まる前に済ませてしまおう」

淳也は差し出された書類に目を通したが、複雑なアラビア語の羅列は、彼には解読不能な記号の群れにしか見えなかった。
「……アラビア語か。内容は、先週のドラフトと同じなんだな?」
「もちろんだ。俺を疑うのか? 淳也」
京太郎が寂しげに微笑む。その表情に、淳也は即座に首を振った。
「まさか。お前を信じなくて、誰を信じるんだ」

淳也は迷わず万年筆を走らせた。その署名が、自らの、そして家族の運命を奈落へ突き落とす「死刑執行書」であるとも知らずに。
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